体育館のステージに仲良く2人並び足を放り投げるようにして座り、天井の柱の隙間にはまってしまった哀れなバレーボールを見つめていた。錆付いた鉄骨は、いつかは輝いていたのだと思うと、綺麗なものは綺麗なままで残り続けて欲しいと願うようになった。


「赤司くん」
「…なんだい黒子」


互いに色の違う双眼が向けられる。顔から零れ落ちそうなほど大きな瞳は影の薄い僕をしっかり捕えている。


「僕、赤司くんは死なないと思うんです」


僕がそう言えば、赤司くんは優しく笑った。冷たいステージの上で、僕は右手、赤司くんは左手、お互いの手が重なる。滑らかで透き通った肌。男臭くない赤司くんはいつも綺麗。


「僕だって人の子さ…いずれ死ぬよ」
「いいえ」


僕はしっかり赤司くんの手を握って顔を覗き込むように赤司くんと見つめ合う。それだけの事で、赤司くんは動じることもなく、ただ黙って息を潜めた。赤司くんの左右非対称な目の色に溶け込まれない僕を写し出して、焦点を合わせる。

だから僕は赤司くんの輪郭に触れてから、頬を包むように撫でた。そうして、どちらかともなく唇を寄せて触れるだけの可愛いキスをする。静かに閉ざされた瞳は、もう僕を写していなかった。


「……テツヤ、」
「赤司くん、目を開けてください」


そう言えば、赤司くんは驚いたように、けれども不思議そうに、目を開いた。十分に潤っている瞳が僕を捕える。握っている手に力をこめて、身を赤司くんの方に預ければ、ゆっくりとステージの木目が近づく。覆い被さるような態勢になれば、赤司くんの手のひらが汗ばんできた。


「赤司くん……」


それから頬を包んでいた指を這わせて、一思いに指を眼球の隙間に入れた。反射的に強く閉ざされた瞳。赤司くんの身体は一瞬で大きく波打ち、喉に何かを詰まらせたような苦しい声をあげはじめた。

それでも指は眼球をしっかり捕えている。ぬるぬるしていて、ほどよく弾力性があって、生暖かい。慣れない左手での作業であるからか、眼球を掴み損ねてばかりいる。その上、赤司くんが藻掻くから、いくらバスケの為に爪を整えている僕の指でも、眼球を傷付けてしまいそうで怖い。


「赤司くん、落ち着いてください」


声にならないような声を静かにあげる赤司くんの、眼球と繋がっている血管や神経や細い筋繊維を引き千切るのが思いの外、楽しい。黄瀬くん達にも、この楽しさを、面白さを味あわせたいと思いつつ、やっぱり自分一人だけで独占したい気持ちが勝った。


「赤司くん…」


そうして、やっと、取れた眼球。うっすらと充血してしまったのだけれど、後で下処理をすれば問題なく、綺麗な眼球によみがえる事を僕は知っていたから、どうってことない。そうしてこれからも僕を写し出してくれる絶対的な保証が出来た。


「赤司くん、綺麗ですよ…」


文字通り血涙を流す赤司くん。僕の指も大概にそうであった。息を切らし、顔の右上、ぽっかりと無くなってしまった、本来そこには眼球が埋められている筈の場所を両手で覆い、唇を乾かしている赤司くん。


「やっぱり、」


もう何もしていないと言うのに、苦しそうに喚く赤司くんに構わず、先ほど強奪した瞳を体育館のライトに照らし合わせて、表面がキラキラ光るのを眺め、それを横目にあの哀れなバレーボールを見る。


「眼球ひとつ、無くなったくらいで、僕、赤司くんは死なないと思っていたんです…、」


そうして振り返り、浅い呼吸ばかり繰り返し怨むように僕の名前を連呼する赤司くんの口を、添っと、優しく塞いだ。


title:綺麗好き


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全然違う話になってしまったorz



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