平日にも関わらず、明日学校があるにも関わらず、しかも朝練もあるにも関わらず、部活が終わってから即、神奈川から東京に出ていって、伊月さんに会いに行った。


「黄瀬、部活お疲れ」
「伊月さん……っ」


色々な事情があるので堂々と待ち合わせなんて出来ないから、伊月さんの帰路から少し外れた人気の少ない住宅街の、街角に置かれた街灯の裏で待ち合わせて、駆け足で向かったら既にそこには伊月さんがいて、いつもみたいに、待たせましたか?なんて聞く余裕もなく、おもいっきり力強く、けれども息苦しくない程度に伊月さんを抱き締めて再会を喜ぶ。

頻繁に会えていないわけではないのだが、一分、一秒でも長く伊月さんといたいし、一秒、コンマでも早く伊月さんに会いたいわけで、控えめに抱き締め返してくれる伊月さんが無理をしないように俺が少し屈めば、「りょーた」と、吐息混じりにとろけそうなほど甘く名前を呼ばれて、それは二人っきりの時に、行為中にだけしか呼ばれない、所謂、特別な呼び方で、戸惑いと驚きと喜びを隠せないで固まったまんまの俺の顔をみて、いたずらっ子のようなあどけない笑みを浮かべて、「カッコ悪いよ」なんて言うから、怒ったふりして強引に仕事用で借りているマンションに連れ込み、稼働中のエレベーターの中で唇を堪能したりもして、性急にベッドに引き入れた。


「ちょ…っ、きせ…悪かったって、…だ、から……」


いつもだったら絶対に出来ない、伊月さんを放り投げるように寝かせて、頭の上に両手首を束ねて、大胆にも覆い被さり、伊月さんの顔が俺の影で曇りだして、唇を押し付けように、自分のものだという子供じみた独占欲に駆られた。首に顔を埋めれば、シャワー後より伊月さんの体臭が強くて、変態じみているが、今夜は歯止めが利かなさそうだと悟った。

え、今夜?

はっ、とした。勢いよく顔をあげたら、伊月さんが顔を真っ赤にして泣いていた。少しはだけた衣服の伊月さんが、いつもより色っぽかったけど、俺が伊月さんを泣かせているのは明らかだった。


「りょ…、た」


伊月さんが身を捩らせたので、自分が両手首を掴んでいることに気付いた。何をやってるんだ俺は。すぐさま手を離して、伊月さんから身を退き上半身を起こしてあげた。


「すみません!伊月さん、俺…!」
「……、…こわか、った」


ポロポロと涙をこぼす伊月さんが、あまりにも綺麗で見惚れてしまっていたけれど、その事の重大さに気付いて俺の両目が潤みだした。だって、明日は伊月さんの誕生日で、今日は日にちを跨いで一緒に過ごす予定で、一番最初に俺がおめでとうを言って、忘れられないような甘い甘い日にする、はずだったのに、俺は伊月さんを自分の勢い任せで泣かせてしまった。


「伊月さんすみません!痛かったっスよね?お、おれ…伊月さんに、名前呼ばれて…その、…それで馬鹿みたいに1人で盛り上がって、…ホントすみません!」


ベッドから素早くフローリングに降りて正座し、両手を床について頭をべったりとつけて、こうべを深々と下げた。何、やってるんだ、俺。誕生日前に彼女を泣かせるだなんて、彼氏失格じゃないか。


「きせ……顔、あげろって」
「……伊月、さん」


伊月さんにそう言われて顔をあげたら、涙が頬を伝った。伊月さんと目が合うと、伊月さんはもう泣き止んでいて、むしろ泣いている俺に申し訳なさそう、といった複雑な顔を向けた。


「こわかった、けど……俺が、悪い…から……」


伊月さんはベッドの上で俺と同じく正座して、膝の上で小さく拳を震わせている。


「いづき、さん…?」


伊月さんが何に謝っているのか理解出来なくて、恐る恐る身を寄せていった。


「俺こそ…、今日は黄瀬にいっぱい、あまえよう、とか思ってたし……だから、黄瀬をおこらしちゃって、……、黄瀬は悪くない、から」


困ったように笑う伊月さんを気付いたら、きつく、強く、抱きしめていた。けれども自分の胸を締め付ける痛みの方が、辛く、苦しくて、伊月さんにしがみつくように頬擦りをして唇を貪った。

上手く酸素が取り込めなくて、二人で一人分の呼吸を分け合うように、キスを楽しんでいたら、伊月さんが積極的に服を脱ぎはじめた。その行動に驚いて思わず離れた唇。見つめ合う前に伊月さんが耳まで赤く染めて、俯き、照れながら、やっぱり制服を脱いだ。それからカッターシャツのボタンを三つ外し「見てないで、りょーたも…」とか恥ずかしげに言って、上半身をあらわにした。


「伊月さん……大胆っス、ね…」
「…んまぁ、今日は、ね」


きっと伊月さんも明日が自分の誕生日だと分かっているのだろう、それらを全部承知の上で脱いでいるのだから、そこには伊月さんなりの覚悟があることを意味した。生唾を飲み込む。緊張から指先が震え、上手くバックルを外せないでいる伊月さんの手を上から優しく包み込んで外してあげる。指と指の隙間を自分の指で埋めれば、それとなく厭らしい雰囲気になって、水気を孕んだ瞳が自分に向けられた。それからあちこちに目配せをして、愛おしいそうに、また、俺の名前を呼んだ。


「…そうやって、上を脱いだってことは、胸触って欲しい、って事なんスよね?」


ブレザーを脱いでネクタイを外し、ボタンを二つ開けて押し倒す。ベッドが軽く弾んでスプリントが鳴った。構わず首に顔を埋めた。ざらついた舌を這わせて首筋をなぞり、鎖骨まで降りたら、伊月さんの吐息混じりの切羽詰まった甘い声がもれだした。肌が粟立ち、産毛まで立ち上がり、俺の唾液を厭らしく光らせる。

膨らむ見込みもない平べったい胸に唇を落とす。吸ってみたり、しゃぶってみたり、舌で転がすように舐めてみたり、強弱をつけて噛んでみたりする。伊月さんは小さく喘ぎ、時折しゃくりあげるようにして、可愛い反応をしてくれる。柔らかく病みつきになる肌を愛撫しながら堪能する。

お互い息を上がらせていたので、一旦落ち着こうと唇を重ねた。舌で舐め合うから、粘着的な音をだし、鼓膜を刺激する。脳が痺れる感覚がある。


「俊……好き…好き、」


しゃべる事さえままならなくなった伊月さんは掴んでいたシーツを離して俺の首に腕を伸ばしてきた。


「…は、ぁ…はぁ、りょー…たぁ」


当たり前に女の人と身体の構造は違うから、今すぐにでも突っ込みたい衝動を抑えて、スタンドライトを点けて、引き出しから二人分のコンドームとローションを取り出す。ローションを人肌に温めてる時間すら勿体ないと思えて、一言謝ってから手の平にローション伸ばして負担をかけないように、ゆっくり、ゆっくり結合部を慣らしていく。縁から内側へ、伊月さんの呼吸に合わせて指を動かす。伊月さんは物足りないのか、ベッドの上でうねり、しきりに俺の名前を呼んだ。


「りょ、…うた……」
「そろそろっスかね……あ、抜きますか?」


伊月さんの痛々しいほど反りたった性器に触れたら、いまさら恥ずかしがって顔を逸らした。今度は俺が名前を呼べば、好きにしろとのご命令で、喜んで性器を頬張った。性器はすでに厭らしい液で濡れていたので、途端に雄の匂いが咥内と鼻腔を満たしたが、構わずしゃぶる。ここに至るまで充分な愛撫をしてきたから射精までに時間はかからない。ある程度、舐めて、いじったら伊月さんの方から出る、と言われて、すぐにコンドームを装着させ、その上で性器を上下させた。必死に喘ぐ伊月さん。最後にくぐもった声で「りょうた」と呼んでから、伊月さんは息を詰まらせて果てた。コンドームの液溜めに集まった精子をこぼさないように外して、新しいのをつけた。


「気持ち良かった、スか?」


だらしなく半開きにあいた口からは唾液が糸を引くようにして垂れていた。赤く染まった頬に一筋が枝分かれしてシーツにシミをつくっている。汗ばんだ額に張りついた前髪を掻き上げて、果てた余韻で焦点の合わない虚ろな瞳に自分を映させてきいた。

伊月さんは胸を大きく上下させながら首を縦に振った。良かった、と胸を撫で下ろせば、「りょーた、ぁ…」と涙声で強請られ、きっと俺は伊月さんにしか見せられないような顔をした。顔を近付けたら両手で頬を捕まれ性急に唇が重なる。


「ぷは……っ、ぁ、…たりない、」


その一言が、強烈だった。慌てて自分のベルトのバックルを外した。スラックスと下着を同時におろそうとしたが、勃起した性器に引っ掛かって上手くおろせなかった。伊月さんは、そんな俺を笑いながら、おろすのを手伝ってくれた。フローリングで足踏みするようにして足を抜き取り、伊月さんの上をまた覆い被さる。


「はやく…、おねがい、……きて」


まだコンドームを着けていない俺の性器を伊月さんはあてがった。すごく、湿っているのが分かった。でも、だから、一旦身を退いた。そうしたら伊月さんは今にも泣きそうな顔をして不思議そうに名前を呼んだ。


「りょうた…、おねがい…っ」


潤んだ両目が、俺をとらえた。慌ててコンドームを取り出して自分の性器に被せる。そうして、足を開かせて、腰を浮かせて、性器をあてがった。けれどもローションの滑りで、吸われるように挿入されていった。喘ぐ伊月さん。締まりがよくて、射精感がこみあげてくる。


「優しくできなかったら…スミマセン」


細い腰を掴んで、欲望任せに激しく突きはじめた。肉体がぶつかりあう。伊月さんは甲高い声をあげる。コンドーム越しに伝わる熱量と柔らかさがたまらなく好きで、こうして死ねたらなんていい事なんだろう、とも思ったことがあるくらいに。


「あ、あ、あ、あっ」


その可愛い声に反応して質量を増した性器。伊月さんはいっそう大きな声をあげる。足が越しに巻き付いてきた。伊月さんを横目に時刻を確認すれば、いい時間だった。


「しゅん、…そろそろ」


ベッドを軋ませる。ピストンを速めた。結合部がより密着する。伊月さんは小刻みに震えだした。


「あぅ、あ、あふ、あ、ああぁ………っ」


背中を弓よりにしならせながら、息を詰まらせて伊月さんは、本日二度目の射精をした。つられるように、俺もコンドーム越しに、伊月さんの中で果てた。伊月さんの赤く染まった頬が、濡れているように光った。


「生まれてきてくれて、ありがとうございます」


0時になる前にそう言って口付けを交わしていたら、いつの間にか次の日になっていた。荒い呼吸を繰り返しながら、伊月さんは嬉しいそうに微笑んで、俺の髪を撫でた。

甘いピロートークをしようと、伊月さんの横に寝転がったら携帯がなった。聞き覚えのない着信音は短く切れたが、立て続けに鳴る。


「俺の、だ……」


伊月さんはゆっくりと起き上がると立ち上がろうとする仕草をみせたので「俺が取るっスよ」と言って、脱ぎ捨てたスラックスのポケットから携帯を取り出して伊月さんに渡した。


「うわっ……日向達からのお祝いメールだ」


伊月さんは急に明るくなって携帯画面を見続けた。なんか、ちょっと面白くなくて、伊月さんの後ろに回ってうなじに吸い付く。伊月さんはくすぐったそうに肩をすくめて身を捩らせた。


「ちょっと、何すんだよ、」
「…さっき、たくさん甘えたいって言ってたじゃないですか……俺も、甘えていっスか?」


そうすれば伊月さんと、目が合って、首をかしげられた。一呼吸して、ゆっくりと口を開く。


「今ぐらい、俺だけを見てて欲しい、っス……」


自分で言ってるうちに恥ずかしくなって、目を逸らした。馬鹿みたいに鼓動が速くなった。顔が赤くなるのを自覚する。


「今だけじゃなくて、俺はいつだって、涼太だけを見てるし、想ってるから…」


そう優しく言って伊月さんは携帯を閉じ、俺の頬を撫でて、唇を添えた。何度目かのキスなのに、唇の震えがとまらなくて、それが伊月さんに知られたくなくて、後頭部を掴んで押し付けるように、またキスをした。


────────
5000文字中、残り50文字ってやば
最後グダグダごめんなさい

伊月先輩誕生日おめでとうございます
大好きです



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -