誰もいなくなった部室は物静かで、床の冷たさがバッシュ越しに伝わってきているようだった。


「テツ……」
「はい、なんでしょう」

「テツ…っ」
「…ふふっ、甘えたですか?」


ベンチの隣に座る華奢な身体を抱き寄せて、腕の中に閉じ込めたら控えめに腰に手が回された。肩に額を押しあてて目を瞑る。


「テツ」
「はい、なんでしょう」


もう一度呼べば頭を撫でられ顔を上げたら視線が絡まる。今にも顔からこぼれ落ちそうな双眼に胸が高鳴って、キスをしようと顔を近付けていった。


「テツ…わりぃ」


唇を堪能してテツを解放してやった。柄にもなくとてつもない悲愴感が急に押し寄せてきたのだ。同世代に自分と対等な奴らがいなくなってきていて、目に見えない恐怖が日に日に俺を侵食しているように思えて仕方なかった。


「青峰くん…」


何も知らないテツは不思議そうにして顔を覗き込もうとしてくる。こんな、萎れた姿、テツにだけは見られたくない。だから次は乱暴に唇を押しつけた。


「はっ…あ、あおみねく…ぁ、っ」

左手はテツの右手と重なっていたのが、キスが深くなるに連れて指を絡めていった。しっかりテツの顎を掴んで、角度を変えながらキスを繰り返した。どうしたって消えない悲愴感。またキスをする。


「い、や…です…あ、おみね、くん」


左手からスルリと消えていったテツ。胸を押し返されて自分の中ですべてが動きを止めた。孤独を感じた。テツが慌てて俺に抱きついてきた。


「青峰くん、ごめんなさい、ごめんなさい…」


テツのそれに応える事無くフラりと立ち上がってスクールバックを床からかっさらうように拾い上げて部室を後にした。どうしようもない虚無感に苛まれたが、何も変わらない現状は頭上に広がる冷たい銀河にも分からないだろう。


title:冷たい銀河



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