「キス、したいっス」


そう言うと彼は容易にキスさせてくれた。触れるだけの可愛いものだった。キスした後、彼は平然を装いながらも唇を微かに震わせていた。強がっちゃって、本当、可愛いんだから。何度もしていることだが、彼はどうも慣れないみたいで、そのたびに新鮮な小恥ずかしい初々しさが自分を満たす。

色素の抜けた頭に手を差し込めば指の隙間から髪が落ちていく。前髪を無造作に掻き上げて彼の額に唇を押しつけた。


「身長差感じるんで、やめて下さい」
「そこも可愛くって好きっス」


細い腰を抱き寄せてお互いの体温を確かめあうように抱き合う。彼も控え目に自分の裾を掴んだ。視界に入る白く細い首筋に、今すぐにでも吸い付いて、自分の、という印をつけたい衝動に駆られる。

一呼吸置いてから彼は呟いた。


「…今更ながら、背徳感を感じます」


流石に僕ら、悪ふざけが過ぎましたね、と彼は自傷気味に薄く笑って、自分の胸に頬を押しつけてきた。胸の奥に、その言葉が、鋭く尖って、突き刺さる。そうして無条件に心臓を意識してしまう。


「凄いですね、ドキドキしています」


彼は胸に耳を当てて心音を聞いている。体の体温が上昇していくのを自覚する。彼の肩口に顎を乗せ耳の中に鼻を押しつければ、くすぐったそうに身動ぎしながらも服の裾を離さないでいる。小動物的可愛さが込み上げてくる。次は鼻ではなく唇を添えた。小さく笑えば彼も笑った。


「…好き、スよ」
「ええ、僕もです」



title:セイシュンモドキ




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