みすてりあす
ミステリアス
それを平仮名で書いたら少しは可愛げが出ていいのではないかといったのは彼女だった。甘さ控えめと無糖とブラックコーヒーの中ならカフェオレが一番好きだと言った彼女の言葉なので気にしない方向でいようと思う。
「ひらがなは可愛いわよ?」
特に意味もなく買ったばかりのボールペンをチラシの裏に試し書きをしただけであって、何となく、頭に浮かんだ言葉がミステリアスだっただけであって、その文字に可愛さは求めていない。書きやすさとボールの滑らかさ、あとはインクの出具合を知りたかっただけだった。
「ほら、貴方の字って心なしかちょっと右肩上がりでしょう?だから、」
そう言って俺の手からボールペンを強引に奪い取ってカタカナで書かれたミステリアスの下に文字のレタリングをポップ調で書き出した。丸みを帯びた曲線に迷いはなくサラサラと細い黒の縁の「みすてりあす」が浮かび上がる。女ってこうゆう事をすぐに出来てしまうから本当に凄いと思う。
「ほら、かわいい」
カチリ。彼女は満足したようにノック式のボールペンの先をしまい「はい」と俺に笑顔で返してくれた。よく分からないが「ありがとう」と言って俺は自分のボールペンを受け取った。
それから彼女は鼻歌混じりに軽いステップなんか刻んだりして俺から離れていってしまった。彼女は何がしたかったのかよくわからない。本能のままに生きている感じではなく、かといって天然、というわけではなく、言うなればチラシの裏に奇妙に浮かび上がった「みすてりあす」に似ているのかもしれない。