説明がつかない
ぬるま湯に浸ること一時間。手足の指先の皮がお湯でふやけてしまい何かに触れると何とも言い難い気持ち悪い感覚だけが残る。
それでも三時間程前に別れた彼女の柔らかく冷たい長い黒髪に触れた時の事を思い出して自分の短い髪を触れてみた。
「かた……」
信じるものすべて手で触れてみて、安心する。しかし、君の心には触れられなかった。いくら「好き」だと言われたところで、本当にそうなのか、確信が掴めなかった。だから俺は度々そうして彼女と揉めたことがあった。彼女は難しい事は考えないで、とかなんとか言ってキスをしてセックスを始める。
「勃った…」
深く彼女の事は思い出していないのに浴槽の中で半勃ちになったのは、生理現象だから仕方ないの一言では済まされないような気がした。
髪を触った手で今度は股間に手を伸ばした。触れる。お湯の中でも熱を帯びていることが分かった。
「かた……」
本日二度目のその無意識な台詞に、鼻で笑ってみたが、なんにも面白くなんてなかった。ふやけた指紋が俺の敏感なところに触れてゾクゾクした。
俺の何処を触っても彼女と同じ感触はない。彼女の存在自体が急に曖昧なものへと変わっていった。そんな分けないと言い聞かせても不安になっていくばかりで、女々しくも自己嫌悪が始まりそうな予感。
また彼女に会いたくなった。