お父さん
彼女の頭のてっぺんに施されたピンク色のリボン。それはリボンの形に型取られたピンだったのだが、セックスが終わったベッドの上でボンヤリ枕元の電気スタンドを眺めていたら、その下で照らされているリボンを見て、ふと頭が懐かしむ。
そう言えば昔、父の日にピンク色のネクタイをあげたな。お父さんに似合いそうとか、そんな理由じゃなくて単純にそのネクタイが可愛いと思ったから買ったんだ。バイトで溜め込んでいたお金で、初めて買ったのがそれだった。
家族の中でお父さんは絶対的な存在で、口数は少なく感情の変化が少ない。だから近所の人からは恐がられていたけど、家族だからこそ分かる事が多くて、本当はとっても悪戯好きで不器用で、口にはしないぶん、態度や表情で感情を見せてくれる。だから、俺からのプレゼントもフッ、と笑って喜んでくれると思ってたんだ。
でも違った。お父さんの顔は変わらなかった。ありがとうと言ってくれてはいたものの、お父さんがピンクのネクタイをつけた所をまだ見たことがないのだ。
その時に俺は思い出した。昔に、一度だけ、本当に一度だけお父さんに怒られた事を。
──なんでもっと男らしくしないんだ──
しばらく親元を離れていたから忘れていた。今でも「男の癖に」とか「女々しい」なんて言われる事もあるが、こうして一生かけて幸せにしてやりたいと思える彼女も出来て、セックスなんかもして、男の役目を果たせている気がする。
「なに考えてるの?」
寝呆けたような声で彼女が問いかけてきた。茶色く染まった髪の毛先が肌に触れ、くすぐったさを見せないようにする為に片手で彼女の肩を抱いて引き寄せた。
「お父さん、元気かなって、思ってた」
そう言ってから、なんか、ちょっと、弱さを見せたように思えてきて、恥ずかしいな、なんて思ったりして、すこし、照れた。
「じゃあ、元気かどうか、確かめに行く?良かったら、わたしも……」
それから何も発さなくなった彼女の方へ顔を向けたら、真っ赤な顔をして俯いて、「だめ、かな…?」と上目遣いで聞いてきた。
俺は本当の意味を理解して事の重大さに心臓が窮屈に思えた。徐々に上がっていく体温が何かを急かしているようだ。
──男らしさを見せつけてやろう──
もしお父さんがまだ、ピンク色のネクタイを持っていてくれていたなら、