姿見
ヒビが入ってしまった姿見に映った私は醜く歪んでしまって鋭く煌めく。
「綺麗じゃなくて、可愛くなりたいの、スカートが履けるような、似合うような、今じゃない自分になりたいの」
鏡は何も言わない。問い掛けても返事が来ないと分かっていたのに、無機物に、私は問い掛けてしまう。傍からみれば自問自答をしているように見られるが当の本人は割りと真面目に鏡に問いていたので片腹痛い。
道徳を知りえれば上手に人生を渡り合えると思う。上下関係ってなんだっけ。恋人と愛人って何が違うんだっけ。それも分からないから日は明けない。
試しに買ってみたワンピース。秋口に安くなった今年流行った柄のワンピース。それを私はこそこそと、エロ本を買うみたいに辺りを、店員の目を気にして買った。そんな安っぽい営業顔して、本当は内心似合わないんだって腹を抱えていたんだ。
姿見に映る自分にワンピースを重ねて、あたかも履いているかのように見せた。私は自分自身を見れなかった。顔をあげて正面から自分を見れないでいる。
「可愛くなりたいだけなの……」
内面の黒が、姿見に映る私を消した。