重たい呼吸
雪が、舞う。本当は雪なんか降っていなくて、降り積もっていた雪が風に踊らされているだけで、それでも君は子供のようにはしゃいだ。
「見て!向こうはキラキラしてる!」
ダイヤモンドダストかな、って君は言って笑う。本当はダイヤモンドダストなんかじゃなくて、ただ舞った雪が太陽光を浴びてキラキラと反射しているだけ。それでも君は絶えず笑う。
「ねえ、もっと近くに行こうよ!」
君は言ってすぐ、あっ、と息を漏らして黙ってしまった。だから僕も押し黙る。白い肌の舌を駆け巡る青い管が病的に浮かび上がり、頭上に吊された液体がコポリと呼吸をした。
「それはまた今度にしよ」
僕はなるべく、君に優しく声をかけたのだが、語尾が小さくなって震えてしまった。君は肩を一瞬だけ揺らした。睫毛が伏せる。
「そうだね…雪は、つめたいからね…」
嫌味っぽく聞こえてしまった僕は、ごめん、と反射的に言ってしまった。君は何も反応はしない。エタノールが慣れた鼻なのに、奥がツンと傷んだ。
コポリと、重たい呼吸音が聞こえた。