TOKYO
膨大なネオンが放つ光の熱。眩しさに目を細めて目蓋の上に手の平を翳した。
「東京って、ホントに眩しい…」
圧倒される人の数。ただ突っ立っているだけじゃ、足は踏まれるし肩はぶつかるし、舌打ちはされるわ、睨まれるわで散々だ。
地元は小さな部品工場によって生計が賄われているようなところだ。その工場はよく知らないが、とっても凄いものを作っているみたいで、たまにテレビの取材が来るようなところ。自然が豊かなのは人がいないからと、その工場が世界を相手に働いているから地球に有害なガスとか出さないから。いいところ。人は優しい。みんな昔からの顔見知りだし、老若男女とか関係ないというか、年寄りばっかり。若い人達は此処ではないところに行く。たまに仕事を求めて若い都会人がくるけど、ボーリングやらカラオケがないとか、携帯の電波が悪いとか、悪態を言ってばかりで、仕事も中途半端にして辞めていく人ばっか。
今すれ違った人も、そうなんだろうな。
ここには憧れていた。それこそ地元にはないものが溢れかえっている。ここが日本の中枢。とっても臭くて汚いところだった。
人は適応力が備わっている。昔の日本は綺麗だった。真っ黒いガスを噴かして、真っ赤な血をたくさん流して、それから変わっていったのかな、教科書でしか分からないから何とも言い難いが、綺麗になっていったのは外面だけだった。
それでもみんな、何かを求めてくるんだ。
「お待たせ、…待った?」
幸せを運ぶ青い鳥。幸せの黄色いハンカチ。幸福を呼ぶ四つ葉のクローバー。幸せは一体、何色なのだろうか。
そんな思考を振り払うように首を横に振った。目の前にいるのは、安っぽいリクルートスーツに包まれた、笑った時の口元がいやらしい人。
「じゃあ、どこ行こっか…中華?イタリアン?」
こんな汚い街で、さっき会ったばっかりの人と食事を交わす事が嫌だったのだけれど、そんなこと言えないから、お腹が空いていないと伝えたくて、人混みの中に入ろうとするその人の裾を掴むと、顔だけ振り向かれて、目が合って、なんだか目を逸らすように俯いてしまって、けれども食事はしたくないと首を振った。
「じゃあ、まだちょっと早いけど…行く?」
何処に、なんて言わなくても分かってしまうのが恐かった。力なく頷く自分も、情けない。
それから私は、人混みに紛れて、ネオンを浴びて、幸せを求めて、今日も、この街のように。