ねむり



私は一體全體、私の何が残っていれば私であるのか、これっぽっちも分からないのです。それは眠たそうに目を擦って、今にも私に欠伸を移そうとする隣人に聞いたものでした。

さすれば隣人は眠気独特の浮遊感、それは意識的な問題なのですが、それらに流され私の問い掛けを聞き直す様でありました。

私も、何度も人に訪ねてまで私を識りたいとは薄っぺらくしか思っていなかったので、話を切りやめました。隣人はやや首をかしげ、それでもやっぱり眠たいようで、目尻を光らせながら大きな欠伸をしました。

くるり、くるりと思考を巡らせていれば視界の端では隣人が机に突っ伏して夢に落ちている姿が見えましたので、思わず思考を止めて隣で眠りに就く隣人を見届けようと思いました。

やや幼い顔つきに、普段は気付けない睫毛の長さ、すらりと筋の通った鼻、血の気のよい形の整った唇。隣人は、そんな顔立ちをしていました。

私は今まで隣人の事をそこまで識らなかったのに、隣人をその隣人だと分かっていいました。つまりは、今まで隣人の似顔絵を描けと言われても私は隣人の顔を描けないはずなのに、それでも隣人がどんな人であるのか識っていたということです。何があるから隣人である、というわけではなかったのです。

もう考えるのをやめました。恐ろしいまでに先ほどまでの私が恥ずかしく至極ちっぽけな人間に思えたのでした。隣人が寝呆けて起きました。私は急いで目元を拭います。隣人も同じ仕草をします。


「あれ…ないてた?」
「…あくび、です」

「じゃあ、移しちゃったね」
「…移っちゃい、ました?」


その時私は、私の存在証明をするよりも、隣人と同じ空間で同じ時間を、眠るという行為で共有する方が大事だと思いました。





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