年の瀬
寒さに耐え兼ねたのか肉眼では確認出来ないほどの異物が身体に侵入してきたから拒否反応を起こしたのかわからないがクシャミをした。周りの目を気にしてみたら案の定あからさまに汚物を見るような自分の存在自体が汚らわしいかのように見られていた。しっかり鼻と口を両手で隠していたと言うのに何故そのような目に遭わなければいけないのか自分には到底わかりそうにもなかったので考えるのを強制的にやめた。
季節は巡り、呼んでもいないのに冬は律儀にやってきて年の瀬を迎え入れようとする。一年の罪と傷の精算とでも言うのか、このクシャミは。
世間から弾き出されたような惨めな気分になりつつもきっと何処かに自分の居場所があると根拠のない希望だけを思い抱いて鼻をすする。ダウンジャケットのポケットに両手を無造作に詰め込んで俯きながらポツリポツリ歩きだすも交差点の手前ですれ違い様に誰かと肩がぶつかるもお互いに謝罪の言葉は残さず雑踏と人混みに飲み込まれてしまい信号は赤を主張した。
へっくしゅん。
後ろの方から誰かのクシャミが聞こえた。振り返ってみれば、明らかに注目の的になっている人物が一人いた。その人は申し訳なさそうに、けれども何食わぬ顔で自然に振る舞う。
伝染病が流行っているわけではないのにどうしてクシャミひとつで好奇の目を浴びせられなくてはいけないのか分からなくて息を止める。むしろ自分が伝染病にかかっているのではないかと得体の知れない恐怖が込み上げてきた。クシャミに反応する、伝染病。
馬鹿げていると思いながらも今のご時世ヘンテコな名前のしたわけのわからない病気ばかりあるのだから別にあっても可笑しくないなと考えつつもやっぱりその発想はないなと首を振って青色に変わった信号を渡る。
へっくしゅん。
とぼけたクラクションにも似ていた、その音。自分は鈍くなった思考回路の中で思わず横断歩道の真ん中で立ち止まり、まるで自分は人生の路頭に迷った哀れ悲しみ同情の対象者のような具合の意識に朦朧、瞑想、酔い、痺れたのでした。
それでは皆さん、よゐおとしを。