わっはっはー
「わらって」
裁縫糸で縫い合わされた唇は赤黒く滲んでいて、酷く醜いものだった。涙、鼻水、唾液、血、汗。それらが彼の顔をより醜いものにしている。
「わらって」
もう一度、そう言った。けれども彼は笑わない。泣きながら、喚いているのか、笑っているのか、耳が言葉として認識できないような声を発している。知っているのだろうか。人は手足を失って口を閉じていても笑えるということを。
どうして出来ないのか理解に困る。笑うことは彼にとって、そんなに大変で、難しいことなのだろうか。
いいや、違う。彼はいつも笑っていた。笑うことが出来る人。何度その笑顔に救われた事やら、両手両足で指折りしても足りない程で、だから、今どうして彼が笑えないのか分からない。
「わらって」
いくつもの死体が六つに切り刻まれていて無造作に散らばっているという可笑しな状況にいるのだというのにどうして笑わないのか。
仕方なく、彼の頬を両手で包み込み、玉結びのある両端を親指で押さえて無理やり口角をあげさせてやった。彼は眼球をこぼれ落ちそうな程に目を見開いた。繊維が切れる感覚が指先から伝わる。
不恰好に表情筋だけで笑った彼はそのまま意識を手放したまま眠りに落ちてしまった。
どういうわけか、大好きな彼が死んでしまったというのに、私はこうして笑ってしまう。不謹慎だと自覚していても涙を流してまで笑ってしまう。でも笑うことっていいことなんです。いつか彼が言ったさりげない一言が今でも忘れられず、呪縛のように耳にこだまする。