優しい人
やっぱり、ゾッとする。
彼とキスしてベッドに押し倒された時に見る、あなたの顔。野性的で獣みたくて。攻撃的な瞳はギラギラ輝いていて私を射ぬいてる。
「あ…っ、ちょ…ちょっと待っ」
乱暴なキスだった。ただ口を塞ぐためにされたようなものだった。足掻いても足掻いても意味がなくて、彼の胸を押し返してもダメだった。シーツが波打つ。恐怖と寒さで身が震える。
「ま、待って!シャワー…、シャワー浴びさせて!」
彼は構わず私の服を脱がされた。ブラも外された。外気に晒されて露になった乳房には鳥肌がたって。それでも掴むようゆ揉まれ吸われて熱い息が吹き掛けられると気持ち良くなる。
「あっ…、あっ、…あっ」
単調な間隔で突かれれば同時に喘ぐ。声は出なくて息だけが虚しく吐かれているようだが、気持ちいいことに変わりはない。
奥まで感じてしまう私。息が詰まりながらも彼を受けとめる。たくましい背中にしがみつくように抱きついて感じる。
「はぁ……う、っ…ン」
それから彼は体勢を変える。私が四つん這えになって彼が後ろから私を覆う。折り込まれた彼の膝で嫌でも足が開かれて、彼は私の肩にしがみついて馬鹿みたいに腰をふる。接合部からはいやらしい音がするから、私の耳まで犯されているような気分。
「……だす、から」
余裕のない擦れた彼の声。私が意識を手放す前に身体の中心に向かって熱が放たれた。生々しい感覚。私の隙間を彼の精子が埋めている気がする。
そう、彼は優しい人なの。何をするにも私を優先してくれる。何処に行きたい?何を食べたい?何が欲しい?いつもそうして聞いてくれるの。だからね、私言ったの。「貴方の好きなようにして」って。そしたら彼、馬鹿だから本当に私を色んな所に振り回した。いきなり身勝手になっちゃって。でも、たまには強引なのも悪くないわねって思ったわ。彼が優しい人だって私は知っていたから。いいえ、優しすぎたと言っても過言ではないわ。とっても優しい人なの。だからプラトニックな私が初めて彼とセックスした時、嫌だったけど、吐き気はしたけど、最終的に吐かなかったから良かったと思ってる。それで私はその日から色んなアダルトDVDを見てきたわ。性行為について保健の授業くらいの知識しかなかったからね。卵に精子を送り込む事が、まさかあんなに大変な事だとは思っていなかったわ。そう、DVDを見て、私達のセックスは相当激しかったと分かった。会話をする余裕なんてなかったし、笑顔なんてなかったわ。ずっと攻撃的な、なんと言えばいいのか分からないけど、理性を失って本能的に生きている野獣のような、なんだろう、これじゃあ足りないくらい、本当に、ゾッとするような顔をした彼を初めてみたの。それは恐かった。雄だと実感した。だから、色んなアダルトDVDを見た。その顔に慣れようと思って。それなりに勉強もした。それは彼を満足させるテクニックだったり。けれども、あの日を境に、彼は私に会うや否やホテルに連れ込みセックスするようになった。正直、よくないと思う。そんな頻繁にやる必要性がないし、私自身、やっぱりまだ彼の顔はたまに怖いし、セックスは嫌いよ。でもきっと彼は溜まっていたんだと思う。彼は優しいから、きっとあの時、私がああ言わなかったら彼と私は最終的に破局していたのだと確信出来る。私は彼を愛している。セックスは好きじゃないけど、私はそれで初めて彼の愛に気付けたと思う。行為中に交わす言葉なんてないのだけれど、彼の愛は感じられた。そう、それはコンドーム。あれは避妊具。私がいくら彼につけてと言っても一向につけようとしない。最初は嫌だった。変な意地を張っているのだと思っていた。でも違うの。私は彼の愛に気付いたの。避妊具を使わない事は避妊を望んでいないと言う事。避妊を望んでいないと言う事は妊娠を望んでいる。彼は私の妊娠を望んでいる。子供が出来たら私達は晴れて結ばれ夫婦になる。だって、子供が私達を繋げているのだから。そう、彼はいい人。優しい人。ちょっと不器用だけれど、そこが彼らしい。私を幸せにしたいと思っている優しい人。だからコンドームをつけないの。本当にお馬鹿さん。そう、言えばいいのに。とっても愛おしいわ。私の優しい人。