僕と彼女とスマートフォン


僕の彼女は身体が不自由だ。

それは事故によって失った右手の事。彼女と一緒に帰宅している時に手を握ろうと触れたら、驚いた彼女が誤って赤信号の道路に飛び出し走行中の大型トラックに衝突した。幸いにも脳に影響はなかったが、ぶつかった後でトラックの前輪が彼女の右手を通過した。お蔭で彼女の右手は奇形し切断せざるを得なかったのだ。彼女は画家だった。稼ぎはそこそこだったが、彼女の絵には人間らしい温かさが宿っていて僕は彼女の絵が大好きだった。けれども利き手である右手が切断され、この先あの素晴らしい絵を描けないと知った彼女は絶望、挫折、虚無感。言葉に表しきれないくらい深い闇の底に墜ちてしまったみたいで、右手を無くした事によるショックで言葉を発することが出来なくなってしまった。僕と彼女の会話手段はなく、心を閉ざしている彼女と意志疎通もままならなく僕は途方に暮れ、ただ彼女の隣にいることしか出来ないでいた。そんなある日、僕は携帯ショップに行った。そこでスマートフォンと出会った。スマートフォンにはダイヤルキーはなく大きい画面を触って操作する携帯であった。これなら彼女と会話が出来る、と僕は迷わずスマートフォンを購入して彼女の元へ行った。机の上に先ほど買ったスマートフォンを置き、動く左手の指先をスマートフォンのメール作成画面に置かせた。彼女は戸惑いながら指先を画面の上を滑らせ始めた。数分したら彼女は打ち終わったのか机をトントン指で叩いたので僕は彼女の隣に行ってスマートフォンを覗き込んだ。


どちらさまですか


僕は笑って彼女を抱き締めた。





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