瞬×聖



「しゅ、んちゃ……」
「いいから…集中して…」


相手が目を瞑ったのを確認してから頬を掴んで下手くそなキスをした。ドラマとかマンガとかアニメとかでキスシーンをたくさん見てきたけど、枕で予行演習とかしてみたけど好きな人といざ本番ってなるとやっぱ緊張して、ただ唇を押しつけるだけになってしまった。


「ぷはっ、……へたくそ」
「うるさい、…」


そうゆう聖だって息止めてたじゃん、なんて言えなかった。強く目を瞑って、唇強張らせて、よく下手くそだと言ったもんだ。受け入れる聖だってそうじゃん。これも言えなかった。


「…ちょっと、恥ずかしいから…」
「うん?…なに」

「な、んか…しゃべってよ、ばか」
「あー…うん」


温かくなってきた頬は確実に赤みを増していた。うつむき加減で表情さえ分からないが、きっといつも以上に可愛い顔をしているんだと思う。


「ねぇ…恥ずかしいって…」
「じゃあさあ」

「うん…」
「も、いっかい、しよ」


ね?と親指で頬を撫でた。そうしたら面白いくらいに真っ赤な顔をゆっくりあげてきた。視線を合わせてくれない。恥ずかしいのはお互い様だと言うのに。

だから頬を両手でつかんで強引に焦点を合わさせた。わずかな身長差は気にしない。女々しいな。恋してるみたい。黒点の中心に膨張して映る自分。呼吸を合わせて静かに控えていき、自然に唇を重ねた。パズルのピースがハマったみたいだなって、思った。

短めに触れるだけのキスをした。柔らかい皮膚が病みつきになっていた。上唇を食い付くように貪った。髪の毛の中に指を差し込んで後頭部をしっかり掴んで自分から逃げないようにした。ダメだ。止まらない。

世間とか道理とか目とか噂とか、この行為が感情が良くないことだって分かっているんだけど止められない。脳が痺れる。だからこそ燃えてしまう。単細胞だな、なんて内心笑って。乱れてきた息にまた興奮して、何してるんだろうって、一瞬で恐ろしく冷静になった途端、唇を離した。

名残惜しそうに自分の唾液が銀色に光って糸をひいている。慌てて手の甲に唇を押さえ付けた。世界中の音が消えて自分のうるさい心臓の音だけ聞こえてきた。「ごめんね、やりすぎた…」そう言った。


「ごめん…」
「謝んないでよ…」

「………ごめん」
「…うれしかったんだから、」


頬に添えていた手を握られて涙目の聖が笑った。優しく、ふわりと、何もかも包み込むような穏やかな表情をする。馬鹿みたいなことして、ふざけあっていた記憶がセピア色に染まりかけた。

ついに越えてしまった。

酷い背徳感に苛まれる。いつからだ、聖を意識し始めたのは。唇が気になりだしたのは、キスしたくなったのは。崩したくない関係だったから、なんかの気の迷いだと思って距離を置いて。

そうしたらどうして避けているんだと怒られて、なんか頭に血が上って告白した。好きなんだ、オレ、お前の事、可笑しいだろ。そう言ったら、知ってた、なんて言われた。僕ら両思いなんだ、なんて言って抱きついてきた。それからは、もう理性と本能の格闘。今はこの様だ。


「ひじり……」
「…ちょ、ちょっと…しゅんちゃ、」

「……ごめんね、」
「あ、っ、…ふ」


強引に唇をまた押しつけた。前歯同士がぶつかったがすぐに舌を突っ込んだので痛みはたいしてないはず。舌を絡める事無く咥内を好きなだけ荒らした。やりたい放題。聖からしたらいい迷惑なんだろう。


「あ……っ、…」
「だめ、聖は、俺の…」


唇を離して、腰の抜けた聖を、きつく、強く抱き締めた。少しだけ背の高い聖は背中を丸めて情けなくしがみついている。腕のなかで浅い呼吸を繰り返しているから、伝わる動悸が激しく、息に熱が帯びている。本格的に欲情しようとしている自分がいる。必死にほつれた理性を保とうとする。


「しゅん…ちゃん…、」
「……ごめんね、もう帰ろう……」

「…瞬ちゃん、怖かった、」
「えっ、あ……ごめんね」


手を離したら、いつもの関係に戻れた気がした。でも、まだ鼓動が落ち着かない。


「へへっ、なんか変な感じ…」
「うん、ちょっと変な感じ、する」


こうして、僕らは日常に戻ったふりをするんだ。生じた胸のモヤモヤ。その違和感は、自分の死角から小さな声で名前を呼ばれているようなもの。気にしなければいいのさ、なんて、ああ、必死に頭を動かしたから頭が痛いや。


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藍世さん家の瞬くんと聖くんをお借りしました!!素敵設定を崩してしまって申し訳ありません。

まこさん!
楽しく書かせていただきました
提供ありがとうございました(^O^)






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