テスト勉強



「お前って、保健のテストだけ満点とるタイプだろ?」


シャーペンが進まない数学のワークにいたずら書きしていたら向かい合って座っていた奴にそう言われた。


「実際無理だから満点とか」
「え?変態なのに?」


奴が解いていた数学のワークは俺のページから二つも跳んだところが開かれていた。ムッとして机の下で足を組んで背もたれに仰け反った。


「あんなー、性に関する単元は自信あるけど、専門用語とかはわかんねーよ。セックスを性交渉なんて言わねーよ。つうか細かい仕組みなんて知るかっつーの。何処から何が分泌されるとかさ。とゆーかそうゆうのってメイン中絶じゃね?俺は列記とした男だし?ついちゃってるし?ぶっちゃけ女の気持ちわかんねーし、なんもかんもわかんねーし」


シャーペンをワークの上で転がした。まっすぐ転がることなくあっという間に止まってしまった。体勢を戻してシャーペンを握る。


「ぶっちゃけすぎ、うける」


奴は笑った。得意げに眉を上下させて「俺は実践派だから」と言えば奴はまた可笑しそうに笑った。


「それ、お前さいてーだわ、うける」
「いやいや、事実だからね?」


奴は制服の内ポケットからタバコのケースを取り出して自然な流れで火を点けてふかした。


「優等生だと思ってたわ、いがい」
「そう?ヘビーだよ俺」


未成年での喫煙って確か、法律的にダメなんだっけか。いや、身体的にもダメかもしれなかった気がする。つうか吸ってる本人よりも周りの人間が悪くなるんじゃなかったっけか。


「おい、明日テストだぞ、お前数学小一時間で進んでねーじゃんかよ」


指に挟まれたタバコで自分を差され淡い煙がまともに吹きかかってきた。顔の前で手を振ってあからさまに嫌な顔をしてやると奴は面白そうに息を吹き掛けてきた。


「ちょっと、まじ、勘弁だから!」
「はははっ、俺結構小学生みたいなところあるからな」


また内ポケットから携帯用の灰皿を取り出して縁を上手く使って中に灰を落とした。慣れていた。


「タバコが格好よくみえるやつか」
「あと好きな奴をいじめちゃうやつ」


ああそう。至極どーでもいいですね。視線を落として難問に再度挑戦してみる。図形の証明とかパッと見でわかるだろ。なんでこんなの書かなきゃいけないんだよ畜生。


「お前ってどんな感じの変態なの?」
「そりゃおめー、健全な変態だよ」


奴はつらまなさそうな態度をして灰を落とした。奴の数学のワークを見ればテスト範囲はすでに終わっていた。

奴のワークに手を伸ばしたらタバコが手の甲に近づいてきたので咄嗟に引き戻して奴を見た。ニヤニヤ笑っていて無性に腹が立った。


「ンな毒吸ってねーで俺に数学教えろや」


奴はタバコを咥えたまま笑った。「新手のツンデレか?」と言われた。シャーペンを奴に向かって投げつけたら胸に当たって床に渇いた音をたてながら落ちた。


「マジのツンデレ?」
「ちげーし、つか拾えよ」


奴は仕方ないといった感じでシャーペンを拾って投げつけてきた。それは俺に当たってワークに落ちた。小さな胸の痛みが残る。


「満点って実際あるよ」


難問と向き合っていたら奴が言った。頬杖をつきながら深く煙を吐くついでに言ったみたいだった。


「俺、数学満点取り続けてるし」


「教えてやってもいいぞ?」と奴は表情筋だけで笑ってみせた。同級生だとは思えないその態度に、なんかちょっと勃起したのは生理現象だよな。





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