ぬいぐるみ



どうして私たちは喚けないのでしょうか。しっかり口もあり咽喉もあるというのに。こんな理解し難い文字の羅列を目の当たりにさせられて今にもノイローゼにかかってしまいそうだというのに。主人はこれを理性と説いた。私たちには理性があるらしい。違う、私には理性がない。何故なら、主人の説いた理性に当て嵌まらないからだ。私は主人に愛されていた。主人の幼き頃から傍にいた。主人は私に沢山の物を見せ、聞かせ、教え、愛情を注いでくれた。けれども、分からない、分からない、分からない、分からない。私は喚けない。主人は私に所謂、愛を教えてくれる。愛とは。黙り更けている私についには主人が怒鳴った。喋ろ、答えろ、さぁ言うんだ。主人は怒り狂った。私の首をしめてきた。文字の羅列が足元に倒れる。その文字の羅列の中には笑顔が素敵な王子様がいたというのに、ぺちゃんこである。主人は精一杯首をしめた後に強く、きつく抱きしめてくれた。すまなかった。そういって私の髪を撫でてくれる。愛とは、なんぞ。私が喚けない訳よりかは、些か容易い問いに思えた。




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