やきもち
ペパーミントのガムを適当に膨らましていたら後ろから頭を叩かれた。その衝撃で鼻の頭まであったガムがパチンと割れてしまった。お陰様で口まわりにガムがへばりついた。
「あはは、だっさー」
声のする方へ振り向けば眠たそうな目をした友人が俺の顔を見るなり笑った。コイツは悪戯好きで俺の腐れ縁。いけ好かない奴。身を乗り出して怒鳴り付けようにも口まわりについたガムが邪魔でそうにもいかない。というか酷く不快。
「ああもう、おこっちゃだめだよ、……とるのてつだってあげるからー」
潜めた眉のシワを人差し指で押されて、そう言うとソイツは俺の両肩を掴んで顔を近付けてきた。コイツの遣りたい事が手に取るように分かった。けれども気付くのが遅かった。もう手遅れ。身を捩ってみても詰め寄ってきて、ヤバイ、と思うと同時に唇を噛まれた。
急いでソイツの胸を必死に叩いてみても一向にやめようとしてこない。唇が離れた。ああ、どうやらガムを取ってくれているようだった。きっとそんなのは建前なのだろうけど。抵抗しても到底かないっこないので諦めて受け入れる事にした。
次々に唇が吸い付いて離れていく。それだけでは取れない時は舐められたり、噛み付かれたりして、とにかく、酷い目に遭った。顔中が唾液まみれなのだから、もう怒る気力さえなくなっていた。
「ねぇ、がむとあそぶくらいなら、ぼくとあそんでよ」
横に垂れ流した前髪が掻き乱された。何も発せない俺の感情に気付いているのに弄ぶコイツが大嫌いだ。手で払いのけたら急に抱き締められた。顔がソイツの身体でふさがれてまともな呼吸が出来なくて、藻掻いてみても一向に離そうとはせず、むしろ腕に力が籠もってきて骨が軋んでいくような気がした。
「もう、ひとりはだめなんだからねー」