相違点



「学校、辞めようと思うの」


街をふらりと出歩いていたら中学時代の友人に偶然会って駅から徒歩五分にある小洒落たカフェに立ち寄って私はエスプレッソ友人はカプチーノを待っている時に「私、前髪切ろうと思うの」と言うように、そう言われた。まだ私がカバンを隣の椅子に置く前だった。


「……え?」


反射的に聞きなおせば、なんだか少し照れくさそうに笑って、友人はもう一度その台詞を言った。


「ちょっと色々あって、それで…」


確かに今の友人には少し陰がある。明るくて元気がよくて人付き合いが上手で面白くて、でもちょっぴり空気が読めない子だった。きっと、そう言う事なのだろうかと悟った。それが変にこんがらがって、事態が悪化し、友人がこう言うまでに追い詰められたんだと思った。

何か気の利いた言葉をかけようと考えていたら、無意識にカバンの柄を握り締めていたらしく、目の前に置かれたエスプレッソのティーカップを持つ前に、手のひらが汗ばんでいて指先が少し痺れていた。

盗み見るように向かいに座っている友人を見ようとする前に、カプチーノを口元に運ぶ手首に刻まれた赤い糸を見てしまった。それは深く刻まれていた。一本や二本ではなく、袖口から見えただけで肘まで刻まれていたのだった。思わず目を伏せた。

こんなになるまで追い詰められたのか、と思った。正直、同情もした。いたたまれない傷を見て、吐き気さえも込み上げてきた。

そんな友人が学校を辞めると言った。きっと、悩みに悩んで出した結論だと思った。カプチーノをすすって、その温かさを愛おしそうにして、ティーカップの縁を指先でなぞって遊んだりしている友人が霞んで見えてきた。


「うん、そうしなよ…」


力なく、けれどもそう言うしかなかった。私に友人を説得させる事なんて到底出来ないと分かっていたから、勢いよくエスプレッソを口に運べば独特な苦味と熱さですぐにカップを置いてしまった。ふぅ、と一息つけば声を抑えて笑いを我慢している声が聞こえた。


「……へ?」
「いや、話して良かったな…って」


友人が笑った。それは泣き顔にも見えた。テーブルから身を乗り出して、そのひきつった頬を撫でたかったが私には出来そうにもなかった。同情がばれてしまうのが嫌だったから。

続かない話題の空白を埋める二人のティーカップが底を尽きるまで、まだもう少し時間がかかりそうだった。




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