ブラック
窓からぬるい風が入ってくる。正方形の部屋に閉じ込められて体を椅子に半強制的に座らされ深緑の板に向かわされている。白い文字がその板に書き込まれていく。私たちはそれを白い紙に黒い文字で書き写していく。そんな私たちがざっと四十人いる。
この空間は人口密度によって気温が高くなっていた。地上から離れ酸素が少しばかり薄い状況下の元で必死に白い文字を書き写している。深緑の板が白い文字で埋め尽くされたら左上から文字が消されていく。そうしてまた新たに白い文字が書き込まれていく。それをひたすら書き写す。そんな作業の繰り返し。
こうしていたら頭が良くなるらしい。根拠はない。ただこうしていたらいいのだ。指をある一定時間動かさないでいるとシャープペンシルから警告音が鳴る。私たちは白い文字を書き写していく。ただひたすらに白い文字を書き写していく。
授業の効率化に繋がるらしい、とMさんが言っていた。失敗したゆとり教育を完全撤廃してゆとり前の授業方針にしたそうだ、とIくんが言っていた。私たちは元々出来がいいからこうなの、とSは言っていた。よく分からない。白い文字を書き写していく。
有能かつ有望な大人にならなきゃいけない私達。頭が良くなるらしい、この深緑色の板に書き込まれた白い文字を白い紙に黒い文字で書き写していく、この作業。繰り返し。反復。
私達は大人にならなくてはいけない。黙っていても身は大人になる。心や知は大人になれない。だからこうして大人になるためにしなくてはいけない。頭が良くならないといけない。将来が有望でなくてはいけない。白い文字を書き写していかないといけない。
ざっと私達が四十人いる。
大人にならなくてはいけない子供たち。
だから白い文字を書き写していく。