きっかけ
「いたいいたいいたい!」
彼女のその声で我に返り慌てて掴んでいた手を離した。白い腕にほんのり自分の手形が浮かび上がってきた。彼女は隠すように部分を反対の手で押さえた。
「ごっごめん!おれ…」
「いっいいの!気にしないから!」
そう言いながらも彼女の瞳は波打っていた。無理やり上げられた口角の近くの笑窪の深さが闇を生んだ。手の平が湿ってきた。
どうして彼女の腕を掴んだのか思い出せない。白いワンピースから生えた細長いそれが気になったのかもしれない。そこから伝わすわずかな体温に想いを馳せたのかもしれない。
「ごめん!ほんと……」
「大丈夫!大丈夫だから!」
彼女は腕を庇いつつ身を捩りながら俺から距離を置く。何にも分からない俺は、とにかく彼女が心配になった。
「でも…赤くなってるし…」
「触らないで!お願い!大丈夫!」
彼女の手を引こうとしたら、手を叩き落とされた。俺は歩みを止めた。彼女が俺が追ってくるかどうか様子を伺いながら距離をどんどん置いていって、ついには宛てもなく走りだしたようだった。
俺は心がかゆくて仕方なかった。