甘え
「僕を好きにしていいよ」
寮生活の中で相部屋になった同級生に、そう、俺と相部屋になるんだから男、同性にだ、いわゆる夜のお誘いをされた。
ソイツは頭が良くて学年首席、スポーツはいまいちだけど容姿は文句なしで、色白なのにスポーツしないから余計美肌で、美白で、イケメンだけど可愛く見えちゃう奴で、そうだな、とにかく、前から抱きたいとは思っていた奴。
「ちょっ…おま、」
俯きながら恥ずかしげに目の前でストリップが始まる。ブレザーを脱いで、ネクタイを外して、じれったくワイシャツのボタンを一つずつ外すから、思わず見惚れていた。ワイシャツが真ん中から割れるように落ちて、はだけたソイツの華奢な身体に顔が熱くなった。
ベルトの金具を鳴らし、それからフックとジッパーの外す音も聞こえて、マジでいろいろ生々しくて、思わず生唾を飲みこむ。だってコイツ、すっげーエロいんだもん。そして下着と一緒にズボンを下ろし、足踏みをしながら床にズボンと下着を置いて、近寄ってくる。
ソイツは椅子に座ったままでいる俺に跨ってきた。俺は逃げることも拒むことも出来たんだけど、なんか新鮮な光景だったし、男にはないような魅了を感じちゃったし、何よりなんだか悪い気がしないから口づけを受け入れた。
「ごめんね、僕、気持ち悪いでしょう?」
ここに来てそう言った。もう真っ裸で俺に跨ってキスまでしているのに。言うタイミングは誘ったすぐ後なんじゃないのか、なんて、お勃っている俺が言えた事じゃないから、もう、なんか、この流れに乗ってやろうって、抱き締めながら首に顔を埋めた。
「…う、ンっ……」
滑らかで、吸い付くような肌に魅了されて、肩胛骨を指でなぞってから手のひらで背骨を辿る。ずっと触ってみたかった、念願のセックス。腰を抱えて引き寄せる。いちいち小さく喘ぐから興奮する。
唾液を首筋から垂らせば、鎖骨、胸の間、臍へとゆっくり落ちていく。顔を見れば耳まで真っ赤にして、両目を潤ませて、乱れている呼吸に酷く欲情した。もう、なんなの本当に、好きにしちゃうよ。
目が合って、キスをして、舌を絡ませて、唾液を伸ばして。プツンと銀の糸が切れたら名残惜しそうに糸を舌で絡め取って、笑ってきた。
「…僕ね、君になら、その…、ぐちゃぐちゃにされても、いいよ?」
ああそうですか、それはいい考えだと、勢い任せに抱き抱えてベッドへと移った。シーツが擦り合う音に反応して、より一層顔を真っ赤に染め上げて、本当に好きにしちゃっていいのか不安になった。
シーツを手繰り寄せ、シワを作り、控え目に掴んで、湿った双眼が俺を見た。膝を擦りあわせて局部が影で見えなくなったので前のめりになって、逃げ道を無くすように覆いかぶさって、顔を近付けて震える睫毛に口づけをした。
「…もう煽るなよ、マジで…ぐちゃぐちゃにしちまうぞ」
見つめ合う。心臓が煩い。ああもうほら、この沈黙だよ。辛い、辛い、辛い。一体コイツは何処でこんな誘い方を知ったのだろうか。この息遣いと言い、上目遣いと言い、エロい。ひたすらエロい。優等生のレッテルがあるから尚エロいと感じてしまうのだろうか。それとも同性でのセックスだから。と言うか、コイツは本当にこっちの奴なのだろうか。
「あ…っ、え、と」
戸惑うソイツにもう一度、口づけを仕掛けた。悪いのは俺じゃない、いや、誘われて断らなかった俺にも非はあるが、あるけど、でも俺は、ああもう、二人とも悪いって分かってるさ。
熱を帯始めた頬を隠すように俯いた、どうせヘタレだよ、どうせ童貞だよ、見損ねた俺に抱かれてくれるなんて優しい奴なんだろうか、もう本当、好きだ。
「……俺、童貞だからさ、加減知らないからさ、その、…嫌だったら言えよ、な?」
返事を待たず腫れぼったい唇に噛み付きながら、恥ずかしさを隠すようにシーツを手繰り寄せて覆いかぶさった。首に巻かれた腕って、期待したって、いいってこと、だよね、ね。