果汁の少ない初恋



私は十五で身売りをした。きっかけはメロンが食べたかったからだった。今になれば馬鹿馬鹿しい事だけど当時の私には充分な理由になっていた。

親には当然見放された。別に構わなかった。家という舞台で家族ごっこをしているようなものだったから。しょせん私はできちゃった娘。日替わりのお父さん。股の緩いお母さん。だからどうでもよかった。

そんな私も、いや、お母さんの過去は知らないが、きっとお母さんと同じ人生を辿っていると思う。私も沢山の男と寝てきた。お陰様で股は緩いし性帯感が鈍くなってしまった。寝てきたのは死にかけの老人からオマセさんな中学生まで。女の処女は好きな人に捧げたいって思うらしいが、どうやら男の童貞は違うみたいだ。まあ、私の処女はお金しか取り柄のないデブだったから何にも言えない事なんだけど。

そんな私は新聞記者を名乗る男と付き合っている。年齢差は親子。先月無事に十八になったので合法のお付き合いをしている。出会いはラブホテルのベッド。彼は私に一目惚れしたらしい。それでいて私の生い立ちを記事にしたいと言った。メロン食べたさに売春娘へ。そんな記事、誰が信じるだろうか。

なんでもいい。初めて大人に存在をセックス以外で認められた気がした。愛されている気がした。好きだと言われて本当に嬉しかった。本能で私にはこの人しかいないと思った。

何度も唇を交わした。足を開いた。声の限り喘いだ。彼を全身で受け止めた。それが愛だった。行為が終わってから取材が始まる。一本のタバコを二人で分け合いながら彼はノートパソコンとにらめっこ、私はそんな彼に寄り添う。タバコが切れたら第二ラウンド。

キスしてセックスをして愛を囁いて。
ねぇそろそろ結婚しない?


「結婚かー」
「うん、そう、けっこん」


身支度を始める彼をベッドの上でシーツ一枚の裸体で見つめている。プロポーズだと言うのにロマンチックでもなんでもない。まあこんな生き方をしているんだからそんなこと別に望んではいないけど、まかさ自分から言いだすとは思わなかっただけ。

彼は妊娠したの?と真面目な顔で聞いてきた。妊娠したかどうかは調べていないから分からないけど、いっつもコンドームなしでセックスしているし、ちゃっかり中出しされているから、出来ていたっておかしくはなかったから、肯定にしておいた。

途端、彼は血相を変えて渋い顔をした。急いでタバコに火をつけた。付き合っているんだから喜んで欲しかったのに、おじさんはそんなことを望んでいなかったみたいでさっきから酷く落ち着きがない。


「ねぇ、けっこんさ…」
「この後振り込んでくるから、お金」

「え………」
「子供下ろしてこい、わかったか?」


頭の中が真っ白になった。時間がコマ送りされているみたいに流れだした。彼は乱暴に頭をかいてわざとらしく濁った溜め息を吐いた。


「まあ、記事はおおよそ書けたし、そろそろ縁を切ろうと思ってたから丁度いいや…三十万で足りる、よな…。はぁ、いいか、おろすんだぞ?わかったか?」


人差し指で何度も私を指差して言ってきた。どうやら呼吸の仕方を忘れてしまったようだ。胸が狭くなる感覚がある。彼は、何を言っているんだろうか。

子どもなんて、いないよ。


「分かったな、おろすんだぞ、…じゃあな、メロン娘さん」


彼は忙しなく出ていった。それはあっという間で。瞬きをしたら受け入れられない事態になっていて、話が飛躍しすぎて、展開が早すぎる。お粗末な頭だから何にも追い付かない。待って、ちょっと、私の話を聞いて。追いかけようにも私は裸。シーツが足に絡みついて情けないことに顔面からベッドに落ちた。

今の私は、きっとお母さんと同じ人生を辿っていると思う。何故かって。たった今本当にそう思ったから。確信に近い感じで。

まあ、こんな、終わり方も、私だからあり得る、か。一息。涙は出なかった。覚悟はしていたから。だけど心に大きな穴が、そう、ぽっかりどころじゃない。抉られたみたいに空いた。


そのあと最寄りの薬局で妊娠検査薬を買った。もちろん赤ちゃんなんていなかった。でも、まあ、複雑な心模様で。公園のトイレだというのに構わず床に座り込んだ。


「あー、愛ってなんなのよー」


瞬きを三回だけしたら涙がたまってきた。両手で顔を覆った。プロポーズだってふられちゃったし、あーあ、ダサいよ。本当に惨めだ。雑に髪を掻き上げる。きっと、あのおじさんの事だ、お金はちゃんと口座に入れてくれるんだろうな。

本当に私たち、付き合っていたと言えたのだろうかと急に不安になってきた。あっちからの連絡がくるまで待って、呼ばれたらホテルに行ってセックスをして。デートとか、ドライブとかカップルらしい事なんてセックスくらいしかしていなかった。溜め息。一人でこんなに舞い上がって、馬鹿みたい。

そこで、あっ、と閃いたというか、はっとした。長期で援助交際をしてしまえばいいのだと。きっと同時に三人はできる。それで今回みたいな出鱈目を言ってお金を貰っちゃえばいいんだよ。もっと計画的に援交をしよう。なんて考え。意地汚い。それが私よ。

そうよ、愛なんて目に見えないものを求めるなんて私らしくないわ。もっと現実的なものを求めるの。お金だっていいしブランド物のバックだっていいわ。そうね、メロンなんかもいいんじゃないのかな。


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歪さま
企画へのご参加ありがとうございました!「おじ×不良のノーマル」との事でしたが、援助交際になってしまいました。当初は身内で楽しませようとしていたのですが、気が付いたらこうなってしまい、複雑な心境です。メロンは私が今年まだ食べていなかったからです。援助交際する人=不良となってしまいましたが偏見などではありません。これを書く上でそうさせていただいたまでです。

楽しく書かせていただきました!

お粗末さまです!
ありがとうございました!





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