故に
珍しく携帯が震えた。振動がやけに長い。どうやら電話らしい。通話ボタンを押して耳に当てる。
「あっ、いま大丈夫?」
クラスの男子の声。普段とは違う感じに聞き取れる。それが面白いな、って少し笑ってしまう。
「うん、大丈夫よ」
「悪いな、こんな時間に」
「ううん別に…なんか用?」
「おう、話があるんだけどさ」
「ああうん、いいよ」
「俺、…証明嫌いなんだよね」
「………私は好きよ?」
「…意味はわかるんだけどさ」
「うん」
「文字にするのが分かんないんだよな」
「日本語の問題だね」
「いや、でも国語は大丈夫なんだよ」
「まあ、それでも日本人の端くれだからね」
「……イラってきた」
「気のせいだよ」
「……なんだろう、接続詞?」
「だから、とか?」
「故に、とか」
「であるから、とかさ」
「そうそうそう」
「故になんて普段使わないからねー」
「だからさ、数学を勉強すればいいのか国語を勉強すればいいのか分からなくなったんだよね」
「あ、うん、ばかだね」
「……いやでもさ」
「数学やればいいじゃん」
「……で、ですよねー」
「うん………えっ」
「えっ?」
「まさか話って、それだけ?」
「………」
「………黙らないでよ」
「えっと、声が聞きたくなった」
「………あ、うん」
「故に」
「………ゆえに?」
「俺、お前が好き」
「………あ、うん……ん?」
「じゃ、じゃあな!」
「え、あ、ちょっ!」
一方的に切られた電話。心臓が早く動いているのに指先の動きはゆっくりとなる。耳に血液が集まってきた。きっともう顔は真っ赤なのだろう。
「てかアイツ、証明出来てたじゃん」