冷蔵庫
暇潰しで付き合っていたんだ。鼓膜に優しくないキンキン声でアイについて熱弁してみたり、半年やそこらしか一緒にいなかったのに僕の全部を分かり切ったような知っているような素振りをしてみせるから。
ウザい
初デートに初キスやらどうでもいい記念日をやけに増やしたがっていて、毎月その日にちになれば服を乱暴に引っ張ってはキンキン声で沢山の事を強請ってくるから癪に触る。
ウザい
だから「今日は俺からのプレゼントがあるんだ」と言えば「初プレゼントの日ね」なんて訳の分からない事を言って喜んだ。ソファに座らせて目隠しをさせれば「なぁにこれ、サプライズ?すっごくドキドキする」と喚く。
ウザい
鉈を持ってソファの後ろに回る。つくづく馬鹿な女だなあと思った。自然科学の法則より馬鹿は馬鹿を産み、そうしてねずみ算式に馬鹿が増えていく。そんなの誰でも分かる事なのに馬鹿は馬鹿なりに考えて有能な精子を欲しがる。だから馬鹿なのだ。所詮馬鹿なのだ。その思考が馬鹿なのだ。
あーもーウザい
「Three、Two、…One」鉈を首もとで大きく振りかぶって「Zero」で振り切った。血飛沫がそこら辺に飛び散る。もぎ取れた頭部が壁にぶつかり鈍い音がした。
ざまぁ
転がってきた頭部を拾い上げると目隠しが外れかかっていたので外してやれば満面の笑み。
キモい
身体はダルマ落としの頭部だけが無くなっただけみたいに座ったままだった。切断面からは血液が溢れていて人間の神秘を感じた。もう一度鉈を持ち上げて右肩目がけて振り下ろせば右腕はただの肉の塊と化した。
あとは惰性でぶった切った。
ほんの数時間前まで息をしていたとは思えないほどに原型を留めていない肉はスーパーでパックに詰めて売り出せば馬鹿が騙されて安っぽい金を払って食べるんだろうな。馬鹿は死なないと治らないとはそのままの意味だなあ、と肉を拾い上げた。まだ生暖かかった。
キモい
肉をラップで包み冷蔵庫にしまった。冷蔵庫の中には今日の日付が記されたチョコレートケーキが入っていた。ああもう本当に最後の最期まで馬鹿だと思った。
「俺、チョコ大嫌いなんだけどな」