poco a poco


補整された小さな川。石畳の上をサラサラと水が走る。サンダルのまま川の中に足を放り出した。流れはさほど強くなくて気持ちがいい。

葉月の風がしたたかに髪を揺らし草木を騒がせた。なびく髪を片耳にかければより鮮明に鼓膜の中で飽和されてゆく自然の音。足元から冷たくなる身体とは裏腹に暖かい気持ちになる。

一歩前に進めば高層ビルが連なり小さな自分が惨めに思えてしまう現実。汚染された酸素を吸い込むのも、酷く冷たいアスファルトを歩くのも。

足を蹴りあげたら川の水が大袈裟に跳ねて水滴が頬をかすった。でも今はそんな所にはいない。それでもここは現実。生まれたての酸素を胸一杯に吸い込んでゆっくりと後ろに倒れこんだ。柔らかな新芽が優しく支え包み込む。

これが丸い地球の優しさなのだろうか。あのビルみたいに堅くなくて、あの車みたく角がなくて、あの人みたく騒がない。とても穏やかである。水が走る。風が走る。時間が走る。それらと同時に血も走る。

ささやかな微睡みの中でも生を感じる。また風が走った。小さな草が頬を撫でて笑う。気持ちが安らんでいくのを自覚する。

それでも人工物を目にしない日はないのだと確信した。ほら、この川だって。足をばたつかせたらサンダルと足の裏をくぐった水に肩をすくめた。

一息ついて、頭上で光々と輝く太陽に手を伸ばせばクシャミしそうになって目蓋を閉じる。

心が徐々に侵食されていく反面、浄化されてゆく。現実逃避を望んだ昼下がり。






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