学ぶ
僕は生まれた時に母親を亡くしました。親の似顔絵には僕だけヒゲを生やしていました。参観日には汗臭い作業着姿が必ず後ろにいました。愛のこもった手料理の美味しさを僕は知りません。抱きしめられた時の温もりを僕は知りません。
例に依って僕は落ちぶれました。荒れました。綺麗事が嫌いでした。命令口調が嫌いでした。当たり前が嫌いでした。親の期待を裏切りました。大失敗でした。
酒を学びました。賭け事を学びました。女を学びました。薬を学びました。それが僕の青春時代でした。
気付いたら親父は白い箱に詰め込まれていました。親父の怒号に耳を傾けず、親父の存在を避けて、僕はあの人に酷い態度を取り続けていました。謝ろうとしたら変わり果てた姿になっていました。僕は泣きました。
遣る瀬なさ、虚無感、どの気持ちもあてはまりませんでした。供えられた仏壇の米に食らい付いて、また泣きました。
いつか学校の先生が言っていたことを思い出しました。
「親は大事にしなさい」
無精髭が似合う僕は身をもって、唯一の親父の命をもってして、学んだのでした。