夢うつつ



目を開けたら真っ暗な景色が続いている。気が付いたら知らない草原の真ん中に寝転がっていた。星のない空。月明かりはあるが決して明るくない。取り敢えず立ち上がり、乏しい光を頼りに前へ進んでいく。どうして自分がこんな場所にいるのか考えるのは止す事にした。きっと夢なのだからと冷静になっていた。暫く砂利を踏んで行くと「お父さんお帰りなさい」と無邪気な娘の声が聞こえてきた。表情が上手く読み取れないが喜んでいるのには違いなかった。次に暖かいクリームシチューの香りがした。「あなた、お帰りなさい」妻がエプロンで手を拭きながら自分の元にやってきた。いつの間にか持っていた職場のカバンを渡してから足に抱きつく娘を抱き上げて高い高いをしてやった。娘は大いに喜んだ。お父さん、と呼ばれ床に娘を下ろしてやると不意に娘の態度が変わった。そうして瞬きの隙間で娘は女子高生までに育っていた。髪を茶髪にくるくる巻かせて、携帯を片手にもう片方の手は毛先を持て余している。「ねぇ、お金欲しいんだけど」後ろにいた妻がスーツの裾を掴んだ。「いくら必要なんだ」そう聞けば人差し指を立たせた。後ろポケットから財布を取出し千円札を渡そうとしたら「はあ?一万だよ、い、ち、ま、んっ」と千円札が叩き落とされた。怒りが満ちて手をあげようとしたら妻に止められ、ふん、と可愛げなく鼻で笑ってからその場を去った娘の背を目に、落ちた千円札を拾おうとその場に屈むと一瞬の目眩。真横から目が眩むほど眩しい光が当てられている。目を細めれば自分は横断歩道のど真ん中に立ち尽くしていて、大型のトラックが向かって来ている。足が竦んで動けない。運転手とガラス越しに目が合う。そうして────


目を開けたらぼやけた景色が広がっている。色彩変化が忙しく瞬きが遅い。ハッと脳が醒めたのは自分の今置かれている現状だった。両手にはハンドルが握られており、足元にはアクセルとブレーキがあった。横を見れば自分の顔写真と名前、運んでいる荷物が書かれていた。そうだ、自分はトラックの運転手だと思い出して、気を持ち直そうとした時。横断歩道は赤なのに道路の真ん中で中年男性が目の前に立っていた。先ほどまで見ていた夢とリンクしている事に動揺が隠せない。夢の続きは覚えていない。とにかく、トラックを止めないと、いけ、な────


鈍い衝撃と酷い音。

目を開けたら真っ白い景色が広がっていた。目の前に広がる殺風景はやけにシンプルだ。赤い命火がふっと消えたのだ。ぶつかるほんの少し前、自分は男性と目が合った。目を逸らすことなく、自分は何も出来ず、そのまま突き進んだ。そうしてぶつかった。不思議と全身から力が抜けていくのを感じた。

夢と現実の境界線が分からなくなった、二七時半。




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