図書館
週末午前の図書館は小さな子供連れの家族がよく来る。お蔭様で駐車場は満員御礼。俺たち警備員はこまねずみのように働いている。駐車場にある車だけではなく駐車場の空き待ちを待つ列の整備は勿論、図書館の周りに停められた車も管轄内だから猫の手も借りたい。
そうして今日は真夏日。灼熱の太陽の下、クールビズを知らない制服は暑苦しく、内側は汗と体温が行き場を無くし籠もっていて気持ち悪い。ワイシャツが汗を吸い込み肌に密着しているからこの上ないほどやる気が削げる。俺は暑さの元凶である太陽を睨んだ。
「暑いっすねー」
手の甲で額の汗を拭いながら後輩が気だるそうに言った。ソイツも同じように制服を脱ぎたいような仕草をしていた。
「冗談抜きで人体溶けそうだな」
帽子をとれば束になった髪から汗が滴った。袖で生え際と額の汗を拭ってもう一度帽子を被った。
「館内組いいなー、クーラーいいなー」
館内は冷房が効いてるため、今日の警備体制を決めるのに大人気ないが文句なしのジャンケンをした。勿論、負けたのは俺とこの後輩。お世辞でも笑えなかった。
「あっ、また路駐…ああもう、お前行って来い」
ふと向けた視線の先で一台の車が道路に停車し中から人が出てきた。後部座席のドアを開けて小さいな子供を抱き抱えてた。溜め息をつきながら顎で後輩を使えばあからさまに嫌そうな顔をしたが、すぐに仕事の顔に切り替えて車の方へ行った。
顔をあげると図書館越しの太陽が見えた。眩しさで思わず目を細めた。
「…あー、図書館いいなー」
自分の呟きは何処かの車のクラクションによって掻き消えた。気付かれないような小さな息をつくと、すぐさま仕事の顔に切り替えて運転手が催促する方へと駆け出した。まだ午前十一時だった。