ひやり
「私はその小さな胸に興味があります」
「……はぁ」
そういって目の前で双胸を揺らしながら私の小さな胸を指差した。
「この貧乳…失礼、この小さな胸にはたくさんの夢と希望が托されているとあなたは思わないのですか?」
「ええ、まったく」
キッパリとそう言うと彼女はあからさまに落胆して私の両肩を掴んだ。
「なんでなの!貧乳だと、いくらでも開発の見込みがあるからいいじゃないの!私は貧乳になりたいわ!」
「今すぐお金払ってまで大きくしている人達に謝って来て下さい」
そう言うと彼女は胸の下で腕を組んで目を伏せた。私は飲みかけのレモンティーを口に含んだ。
「…わたし、お兄さまにそうゆう侮辱をさせられていたの…だから、わたし…」
「………………なんか、ごめん」
何となく気まずくなった。目を伏せてレモンティーが入った容器を持て余した。ストローの口を指で押しつぶすと少しだけ形が歪んだ。
「………とか、言ってみました」
「…………………はい?」
聞こえてきた声を疑った。顔をあげたら、彼女は相変わらずの笑みを浮かべている。
「この胸は遺伝に決まっていますわ、だって私にお兄さまなんていないもの」
「……………はい死ねー」
私はストローと上蓋を取ると彼女に頭の上からレモンティーをかけた。胸の谷間に挟まった氷がゆっくりと笑うように落ちていった。
「ちょ、ちょっと!何するのよ!」
「もうアタシに構わないで、アタシは今のアンタ以上に不快だから」
空になった容器を無理やり彼女に押し付けて歩きだそうとしたら、後ろから腕を引かれて背中に柔らかい何かが押し付けられた。
「意地悪が過ぎました、ごめんなさい…でも私、本当に…!」
「あー…うん、もういいから…さっきのでオアイコ、…これでいいでしょ」
萎れた声に頭があがらなかった。そうして背中がやけに冷たくなったので口を歪ませた。
「そんな顔、しないで下さいよ」
「……何さりげなく胸触ってんの」
胸は彼女の手によって包み込まれた。本当に小さいな、と改めて実感させられた。けれどもレモンの香りがしたから、何故だか怒る気さえしなくなった。