「ほらーもっとのめぇやー…」


──えらいこと、なった

それは安易に考え付くことで、薄々こうゆう事態が来るんだろうと分かっていた上での事だったが、あまりにも早くて何も追い付けない。

──絡んでくんなや…


「あすかぁー…」
「……えと、大丈夫すか?」

「んうぅ、なにがー?」
「……、いや」


目が完全に据わっていて、背骨は溶けてしまったようでテーブルにほとんど身を預けていた。蛍くんはもう、五杯目のビールに突入している。

本当は俺もガッツリお酒を呑みたかったのだが、すっかり出来上がった人が目の前にいたら、口に運ばれるビールが少量になる。

──これ、1人で帰れるんか…

なんて余計な事かも知れないが、そう思った。焼き鳥を頬張る。甘辛いタレが美味い。大きくジョッキに口づけをしたら、下から俺を覗き込むようにする蛍くんと目が、合った。

潤んだ瞳。いまにもこぼれ落ちそうなほど大きなもので、味わっていた鶏肉をビールと一緒にゴクリ、と流し込んでしまった。

──なんで、見てんのや…

あからさまに横に向いて、またジョッキを傾けてみる。それでも感じとる熱い視線。見られる事はあまり慣れていないし、顔にも自信がないから、どうしていいかわからず、取り敢えず放っておく。

──こっち見んな……、

少し、目を伏せて、視線をはぐらかす。


「なーあ、あすかっていくつ?」


それから蛍くんは、ふわふわと綿菓子みたいな声で、そんな事を聞いてきた。

俺はチラリと横目で蛍くんを見れば、コテン、と首を傾けながら「なぁ、いくつなん?」と聞いてくるので、ジョッキを置いて「25っす」とだけ言い、枝豆を食べた。


「ほんまか!」


蛍くんは突然起き上がり視線を正した。よく分からない蛍くんの行動を俺は不思議に思って視線を送った。


「あすか、おれの2コしたかー」


パチパチと瞬きを繰り返す蛍くんに、俺は涙が落ちてこないか心配になった。

──てか、この人、俺の2コ上て……

やっぱりな、と思う反面、嘘やろ、と思った。大人びて見える仕事っぷりの裏には、こんな幼稚臭さがあることを気付いて、そう思った。つまり、俺の中で蛍くんに年齢なんて、あっていても、ないようなものだと思った。




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