理由なんてどーでもいい


「こら、そこの女!胡坐やめーい」
「うるせー男だな」


いま何故か俺の家でクラスの女子が制服のまま胡坐をかきながら俺の少年漫画を読んでいる。彼女との交流はあまりないが変な子だと認識している。学校では黙っていれば可愛い子だと思っていた。だけど俺の学校帰りをずっと付けていた。それは家についてから気付いき、図々しくも家に上がり込んで今に至る。

両親は共働きだから家にいないし、俺は一人っ子だからこの時間に自分以外の誰かがいる事が少し嬉しかったりしている。でも、でも、これは、駄目だろう。


「常識のない、お嬢さまだ」
「…ふっ、ここはつまらぬ家じゃ」


彼女のポケットから砕けた揚げ煎餅が出された。それを器用に歯であけて砕けた小さな煎餅を口に咥えて俺と視線を絡めてきた。


「なんやねん」


俺は彼女の前に座って眼鏡を外した。そんな雰囲気なのだ。手を伸ばして彼女の肩を掴んでもまったく動揺しない。


「キスじゃないからな」


息を止めて、一瞬だけ目を逸らし、また目を合わせる。おずおずと顔を近付けていく。角度をゆっくり傾け煎餅を咥えかけた、ら、煎餅の咀嚼音。


「美味」
「…あっそう」


彼女からゆっくりと離れていく。そんな雰囲気だと思っていたのは俺の勘違いで、家についてくるほど好きなんだなと思っていたのは俺の自意識過剰だった。


「あんた、俺の事好きじゃないんだ」
「…あ、パンツみたんでしょ」


眼鏡がないので手のひらを彼女に見せ付けて眼鏡をかけた。ちょっとたんま。そしてスカートから出てきている白い太ももに視線を送ると頭突きをされた。


「痛いです、船長」
「ムードがまるでないよ」


彼女は俺に口づけを仕掛けた。俺はどうする事も出来ずファーストキスは終わりを告げる。


「……え、なに」
「あら、押し倒さないのね」


残念、やっぱりつまらない、と彼女は俺のセカンドキスまで奪った。


「せっかく、二人っきりなんよ?」
「…おまん、なんなんや」


少年漫画を閉じて俺の眼鏡を奪い取った。彼女は煎餅をもう一欠片口に咥える。俺は手で咥えられた煎餅を奪って食べた。


「ははは、実に美味い煎餅だ」
「……したらば、おいたましるお」


彼女は歳の合わないような奇声を発しながら立ち上がった。


「みえた、黒だ…帰るんだ」
「残念、紫でした…え、なら」


彼女は俺の眼鏡フレームを舌でなぞった。ゆっくりゆっくり、舌がフレームを這うように。それからレンズはしゃぶるように咥えた。唾液が床に垂れていく。


「セックスします?」
「……丁重にお断りします」


唾液でべたべたになった眼鏡をかけられる。気分は最悪。どうしたらいい。


「なあ、なんで俺の家に」
「……ええ、ならば帰ります」


出ていこうとする彼女の腕を咄嗟に掴んでしまった。そう。反射的に。本能的に。官能的に。セックスはしたくなかった。そこまで望んではいないから。すぐに口は開かず、取り敢えず手を離した。


「あ、えっと、寂しい、です」
「………私も」


ホントはちょっと、寂しかったのよ、と優しい微笑みを見せた彼女に何となく欲情した。でも手は出さないと心に誓う。


「つまらないからセックスしようと思ってました、真っ赤な嘘です、ごめんちゃいな、とか言ってみる」


唾液でべたべたしている眼鏡を外してティッシュで拭いた。三枚も使った。丸められたティッシュがみっつ。俺と彼女の間を転がる。俺は眼鏡をかけなおす。


「つか俺のこと好きなの否定しろよ、なんて真っ黒な嘘かもしれないですね、あんたは嘘吐き、紫じゃなくて黒じゃん、とか言ってみまっす」


そうして床に取り残されている少年漫画の次巻を彼女に向かって投げつけた。彼女はそれを受け取ると学習机に付属されていた椅子に胡坐をかきながら読み始めた。白い太ももの奥にあるパンツはどーでもいい。人口密度を高めるのはあと数年後なんだから。




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