類似運命



石ころの中に埋もれていたビー玉を拾った。欠けはしていないが傷がついていて斜面を真っ直ぐには転がらないのだろう。太陽に透かしたら純粋な透明に浮かぶ色とりどりの光、中央には赤色が堂々と走っていた。

追っ手が直ぐそこまで来ていたのでビー玉を握ったまま有刺鉄線を乗り越え、身を隠しながら走り続けた。上がる息に歯を食い縛って辿り着いた。

古汚い平屋に駆け込むように入った。奥から「おかえりなさい」と聞き心地のよい声がかけられる。行儀悪いが靴を脱ぎ捨てると声の持ち主のもとへ駆け寄り抱き締めた。

「ちょっと、ちょっと」女の体は抱き心地がいい。何か作っている最中だったのだろう。エプロン姿にお玉が握られていた。自分の腕にしっくりと納められた体の持ち主はゆっくりと腕を腰に回そうとしていた。肩を掴み自分から引き離してそれを阻止する。

きょとんとした眼差しが向けられて呼吸を整えた。「ごめん、お前を守れないかもしれない」湿っていく瞳を直視する事が出来ず握っていたビー玉を渡した。彼女は俯きながら大きく首を左右に振って力強く腰に抱きついてきた。

「そんなこと、いわないでください」「俺と居るとお前まで…、お前まで」「ええ、ええ、でも私は一人がいやなのです、ですから…」

顎を持ち上げた。すでに涙でぐしゃぐしゃしていた。構わず腰を折って口づけをしようとしたら派手な音がした。追っ手が来たと分かった。

「お前は裏から逃げろ」「いやです、私は貴方の!」視界に追っ手が入ったと思ったら彼女が甲高い悲鳴をあげた。胸が熱くなっていくのを自覚した。膝から落ちてその場に倒れた。

一瞬が引き延ばされたような映像が映る。彼女が自分の肩を大きく揺さぶりながら声をかけていた。頬にポタリと涙が落ちてきた。また追っ手が視界に入ってきた。追っ手は彼女を自分から引き離して。一度は離れたが彼女が懸命に振りほどいて自分にすがりついてきた。また追っ手が彼女を引き剥がす。彼女は激しく暴れるが追っ手によって抑えられていた。彼女からビー玉が落ちた。ゆっくりと自分に向かって転がってきた。それは真っ直ぐ転がっていて、たまらず笑った。


ビー玉を見つけた時、心の何処か自分の死角になっている処から何かを感じとった。自分とコイツは似ている。自分はみんなと違っていて周りから浮いていて、汚され傷つけられ、拾われた。でもビー玉は死なない。自分には死がある。あと少しで届く距離にある。ビー玉は死なない。死を歓迎されていない。そこが違った。


乾いた音が鳴り響き、俺は死んだ。

それは確かに類似運命。




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