偶感スペクタクル



雨の音が響く。受話器越しの君の声がかき消される。反射的に電話を切った。降り注ぐ雨を全身で受け止めながらも、だらしなく首はうなだれた。君はいま誰といるのだろうか。好きだとか愛してるとかありきたりな台詞を言いながら後ろから聞こえた知らない男の声は一体なんだ。


「…………」


傘もささず此処に居たら君は来てくれるのだろうか。あの日、二人の間に見えない糸の存在を感じた。声に出さなくても態度に示さなくても意志疎通が出来ていた。それは確かに繋がっていたと認識するようなものであった。

だが、いくら待っても君は現れない。時刻を確認した携帯画面にはあの日の君の笑顔が変わらずあった。ポタポタと濡れていく画面に歪んで映った君の笑顔。勢いよく足元に携帯を叩きつけた。跳ねた水しぶきがジーンズの裾を重くした。

煙草を吸おうとポケットを探れば手の中に鋭く危険な物が持たれていた。足元から聞こえたガラスの割れる音は直ぐに雨によって掻き消され水気を含んだ衣服に構わず体は動く。向かう場所は近くだった。




土足で家に上がり込む。玄関にはハイヒールと安っぽい革靴。そのまま奥に続く廊下の先へ行く。キッチンについた。ダイニングテーブルに向かい合うようにして置かれたワイングラスの中には少量の赤ワインがあった。手前のグラスには赤いルージュがついていた。心に刺さるような痛みが走る。


「……ぁあ、っ」


彼女の喘ぎ声が聞こえた。家の奥にある寝室だと分かった。迷うことなくポケットから危険な物を取り出した。そして一歩一歩踏みしめるように奥へと進んでいく。


今から一緒の終止符を打とう。





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