Don't cry I still ?



喉仏を上下させた。鎮痛剤は気持ちがいいけど思考が鈍る。椅子に縛り付けられた身体。しかも裸体だから縄が皮膚を食い込んでいる。特に四肢は血がとまるくらいきつく縛られた。血がとまるくらいと言っても斬られた左腕からは溢れんばかりの血液が流れ出ているから大袈裟すぎた表現かもしれない。切断面から見える赤とほんの少しの白が今はとてつもなく官能的に見えてしまった。自分の斬られた腕に欲情するなんてどうかしてる。だから今のは鎮痛剤の所為にしよう。

雑多した部屋に響くのは二人分の呼吸音でこれから自分がどうなるのか気になるけど酷く重い頭で何かを考えるのは出来ないので今は時間に身を任せることにしよう。自分の息は荒く熱を帯びていた。心なしかもう一人の奴も息が荒い。

だらしなく開いてる自分の口からは唾液と血と精液が垂れている。重くなっていく目蓋を無理矢理開けている。視界は湿っていてたまに歪む。もう一人分の呼吸音は後ろから聞こえる。見えない恐怖とはこう言うことなんだろうな、ああいま鏡で自分の姿をみたら滑稽で腹を抱えてしまうんだろうな、と思った。そんなこと思うなら今から自分がどうされるか考えればいいんだけど、やっぱりそうなると後頭部が痛みだす。


「はぁはぁ、次は犬歯、はあぁ、犬歯…犬歯、けんしぃ」


視界一面には真っ白な天井。所々ヤニの黄色がついているだけの天井。後ろの奴に髪を引っ張られたんだと分かった。そして奴はやっぱり息が荒かった。返事をする事もかぶりを振る事も出来ない。ただ小さく喘ぐだけ。焦点が合わない目で奴を探していたら錆びたペンチが見えた。


「けんし…けんしぃ…、ハァ、はぁはぁ、っああ、とっちゃいまあす」


奴は可愛い後輩、だった気がする。後輩から恋人に昇格したんだったか。まあいい。いまは奴に拘束され自由が利かない立場でとても不利な状況で下手に逆らえば、どうなってしまうんだろうな。もう左腕はないしこれから犬歯を抜かれるし。目を細めたら狂喜に満ちた奴の笑顔が見えた。左腕より犬歯は可愛いものだからくれてやろうと思うが、ああ頭が重い。

開けられた口にペンチが入ってきた。顎をしっかり押さえられている。唾液と血と精液が喉元に溜まり違和感に思わず噎せ返ったら入り混じった体液は口から飛び散った。きっと奴はまともに食らっただろう。それでも楽しそうに奴は笑っている。

ペンチが歯を掴んだ。何度か掴み直しているのが手に取るように分かって怖い。自分は情けなくて泣く事しか出来ないでいる。あれ、なんでここにいるんだっけ。激しい目眩の中で軽い走馬灯を見た。ああそうだ。思い出したくないけど思い出した。

大学を終わって帰路を歩いていたら女友達を見掛けて少し話をしてたんだ。そうしたら奴が急に間に入って来て、自分の腕を掴んだと思ったらあっという間にここ連れてこられて、嫉妬で泣いている奴にムラムラして、一発ヤって、その後に奴はフェラを要求してきたからしてやったら、こうだよ。拘束されてて痛剤打たれて左腕切り取られ今は犬歯だよ。


「せんぱあい、おれ、おれ…ふぇらされてるとき、せんぱいの、これ、…ここのはがあたってね、せんぱあい、せんぱあい…っ」


左腕を斬られる時もこうして奴に何かを言われた。何を言われたかは分からない。鎮痛剤の所為で意識が上の空状態なのだから。ほんの一時間前まで自分の下であんあん喘いでいた奴だとは思えない狂乱ぶり。セックスとフェラしてやっただけで奴は変わった。やっぱり男は駄目なのか。開発するべきではなかったのか。それともまだ嫉妬しているのだろうか。ああ血が足りない。酸素も足りない。ああ、ああ、もう、抜かれる。

刹那、全身を駆け巡る電気。目の前では白い火花の幻覚さえ見えた。でもそれはほんの一瞬。痛みもたいして感じない。あくまで左腕の時よりは。心臓が脈打つ度に歯が抜かれたであろう部分からジンジンと痛み、熱くなっていく。呼吸をすると空気が当たり一々痛い。でも冷たくて気持ちいい。だから呼吸はやめられない。咥内にはまた唾液と血とほんの少しの精液があって喉を上手く通れずに溢れたりたまに飛び散ったりする。


「ああぁ、せんぱあい…これでせんぱあいの、ぜんぶ…ハァはぁ、あいせます、せんぱあい、せんぱあい、ねえ…せんぱい、はぁはぁ、せっすくしましょう」


何故かお勃っている自分の男性器に奴は跨ると同時に先ほど自分によって開発された肉体の一部にあてがった。押し込む前に切断された左腕を使って挿入口を拡げていた。そんな左腕を奴はあからさまに嫌そうな、蔑むような、汚物を見るような、そんな目をしていた。なるほど。肛門に突っ込まれた左手がどうしても奴は愛せないのか。犬歯もあながちそう言い意味なのか。

もう頭は限界だ。頭が首からもぎ取れそうだと感じた。可愛い後輩が激しく動く。どうする気力も体力も正直ない。ああこれからどうなってしまうのだろうと考えるとやっぱり頭が痛くなる。でも奴に愛され生かされるのだと悟った。奴にとって忌々しい左腕と犬歯が無くなったのだから。

どんくらいあいしてる?

聞かなくても分かっていた。


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しらとりさんに捧げます。
何もなくて申し訳ないです。

相互ありがとうございました!


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