お釣りのない気持ち



「お前の髪すっげぇ邪魔」
「…え、あ、ごめん」


隣を歩いていると幼なじみの彼が私の髪を邪魔だと言った。確かに邪魔だと思う。裕に肩胛骨まで伸びている髪の毛。何かの願掛けでもないし、故意に伸ばしているわけではない。


「切っちまえよ」
「そうしよっかな」


胸元の毛先を摘んで枝毛を探す。最初、頻繁にアイロンをかけていて毛先が死んでいるから、これを機に切ってしまおうと思った。


「ああいい、それがいい」
「なによ、もう」


素っ気ない態度に何となくムカついた。別に切ってもいいんだけど、いいんだけど何よあの態度。揺れる髪がソイツに当たった。あからさまに嫌な顔をされて複雑な気持ちになった。


「切れ、今すぐ切れ、邪魔」
「今すぐって…無理だし」


第一にだってハサミ持ってないし、第二に自分で切れないし。チラリと隣見ればまだ不機嫌な顔がある。そんなに長い髪が嫌なのだろうか。

手首につけていたゴムを口に咥えて髪を束ね始める。歩きながらなので上手く髪がまとまらない。彼は私の事なんか眼中になくて目の前を歩く美人を見ていた。その美人はショートカットがよく似合っていた。


「なによ、鼻の下伸ばしちゃって」
「…るっせー、………って」


頭の上の方で束ねて口からゴムを取るとソイツはじっと見てきていた。慣れない視線が歯痒い。構わず手ぐしで髪を結った。


「髪が短い子が好きなんでしょ」


結んだポニーテールをわざと揺らした。彼に当たっていないと髪から伝わる。足早に帰路を急いだ。


「おい、なに拗ねてんだよ」
「いいじゃない、私の勝手でしょ」


一人でツカツカと歩いた。どうして私がここまで不機嫌なのか自分でも説明がつかない。よくわからないけど今はこうして突き放したい。距離を置いたと思ったら急に後ろから腕を捕まれた。


「ちょ、ちょっと!」
「拗ねんな、ばーか」


いちいち私の癪に触るのが上手な男だと思った。さすが私の幼なじみ。そんな私はソイツの事なんてわからないから、世間様とやらは不平等だと心底思う。てゆーか追いつくの早い。


「その、なんだ…お前、」
「なによ、はっきり言いなさい!」


力強く腕を振りほどいた。その時に思い出した。彼は昔から泣き虫だった事を。それに気付いたから今は彼の顔をまともに見れない。何となく気まずいから。


「………わりぃ」
「…いいのよ」


また二人並んで歩き始めた。隣をみると彼は泣いてはいなかった。それはそうだ。私は女らしくなって胸が膨らんだ。彼も男らしく、背は伸び声も低くなった。涙もろい彼はもういなかった。


「長い髪は邪魔だ…でも、そうやって毎回結ぶなら、切らなくてもいいんじゃねーの…せっかく、伸ばしたんだし」


ソイツの矛盾した言葉に足が止まった。目を合わせると直ぐに逸らされてしまった。


「……切らなくていいの?」
「勘違いすんな、ばーか」


彼はそのまま歩きだした。わけも分からずただ距離だけが離れていく。ある程度離れてからソイツは振り返ってこっちを見た。


「おら、さっさと帰るぞ」


彼の事は知ってはいるが、よくわからない。取り敢えずは家に帰ろうと思う。小走りで彼に追い付いた。隣の彼に髪が当たった。慌てて隣を向いても彼は決して不機嫌な顔ではなかった。


「ねぇ、ポニーテールが好きなの?」


彼は黙って私の髪を引っ張った。

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