水性マジック


ぶくぶくぶく

口から空気が漏れる。気泡が光に反射して神秘的な色を魅せた。遠退く意識の中でキレイだと思った。水の中。足掻く度に体力は消耗され、疲れ果て僕は命を諦めた。僕はボートから誤って転落したのだ。死んだ彼女から貰ったお揃いのペンダントが水の中で見えた。それは先ほどまで自分が首から下げていたものだった。手を伸ばしてみても届かなくて身体をボートから乗り出した。それがいけなかった。派手な音を立てて転落した。それでもどんどん沈んでいくペンダントを必死になって追い掛けた。指にペンダントが引っ掛かったので、そのまま浮上しようと足をばたつかせた。泳げない事はないのだが全く浮上出来ないでいた。むしろ沈んでいく気さえした。――もう、どうでもいいや。彼女の顔が浮かんで命を諦めた。気泡がやけに美しくて脳が落ち着いていく感覚に陥った。

ぶくぶくぶく

口の端から空気が漏れる。お世辞にも綺麗とはいえない水の中。だからこそ気泡が光がペンダントが彼女が美しく見えた。指に絡まるペンダントに苦しくなる胸。彼女に恋した時と彼女が亡くなった時以来の胸の痛み。ペンダントを指で確実に手繰りよせ胸に当てた。

ぶくぶくぶく

あとは死ぬだけだった。




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