地球が192゚廻った頃
代わり映えのない日々に少し飽き飽きしていた。頬杖をつきながら黒板に書かれていく白い文字の羅列を目で追って溜め息を吐いた。走るシャーペンの音。誰かが消しゴムで誤ってノートを破った音。かすかな笑い声。自分の溜め息。
ありふれた日常。変化を求めない周りの人間。こんなに退屈なのは自分だけなのか、と内心寂しい気持ちでいっぱいだ。
ふと隣を見たらノートの切れ端を折って何かを作っている女の子がいた。左右非対称の雑なツインテールがよく似合っていた。
「ねぇ、何折ってんの」
「……アポロ」
女の子は丁寧に折られたノートを机の上に投げ飛ばしてきた。幸い、誰も気付いていないみたいだった。机に乗っていたのはロケットだった。真っ白で素朴なロケットだった。
「ああ、アポロ」
「…のりたい?」
「乗りたい」
「…げつめん、あるける?」
「やったことない」
「…あっそ」
小声で会話をした。女の子はか細い声で感情がまるでないように思えた。このクラスにこんな面白い奴がいたんだな、とまた女の子の方をみた。
「…なに」
「あー、あのさ」
目が合って話し掛けられたが話題なんか何もなかった。何でもない、と言えばいいものを言葉を濁してしまった。手に持っていた紙切れロケットが視界に入った。
「これの作り方教えてくれよ」
女の子は瞬きを二回繰り返す。本当のところロケットの作り方なんてどうでもよかった。その場しのぎの話題なのだから。
「…げつめんのあるきかたも、いいよ」
表情ひとつ変えず女の子は言った。錆びれた歯車が軋みながら動き出した音が聞こえた。書きかけのノートを大胆に破って女の子に見せ付ける。
「上等」
先生のチョークが額に当たり、日常がほんの少し笑った表情をみせた。