縫い付けた二枚舌


押しては返す波に目を奪われていた。砂浜に打ち上がる水飛沫がたまに肌にあたり気持ちいい。燦々とする太陽光に眩まされながらも波をただ見続けた。心がゆっくりと浄化されていく錯覚に酔いしれていたかったのかもしれない。


「波に騙されるんじゃないよ」


しゃがれた声が後ろからかけられた。ザザァと波が音を消した。


「ええ、わかっています」


振り返らずにそう言った。ザザァと波が音を消した。波の延長線にある地平線を眺めていたら水飛沫が顔に跳ねた。


「美しい…」


押しては返す波に足を踏み入れた。途端、急に波が猛威を振るって自分の身体を飲み込んだ。一瞬の出来事で四肢を使って藻掻いた。四肢は空を描き虹色を魅せた。

目を細め走馬灯に終止符を打った。


「ほら、言わんこっちゃない」


ザザァと波が音を消した。



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