盲目故にバイアス
「ね、殺しちゃダメなら目玉ひとつ、取ってもいいよね?」
血生臭くなった四メーター四方の色彩のない部屋。椅子に括り付けられ両腕は後ろで束ねられ両足もきつく縛られている僕は狂気的に笑う君が楽しそうに見えて涙が溢れた。
「た、確かに殺さないでって命乞いしたけど、だけど…だけど!そんな事したら死んじゃうよ!」
身を乗り出して声を張り上げて言った。声は飽和し波打つように響いた。君が近づいた。僕は身を退く。
「あら、人はいずれ死ぬのよ」
それに――
君は僕に跨った。千枚通しが視界に入って戦慄した。君は頬を擦り寄せてくる。死人のような冷たさに息をするのも忘れてしまった。
「あなたに目玉は多すぎる」
近くで目が合う。僕は逸らせなかった。瞼を閉じることも下を見ることも出来なかった。圧倒的な恐怖、憎悪、愛。身の毛がよだつ。
「ぼ、僕には皆と同じ目玉がふたつあるじゃないか!き、きみは…」
オカシイ――
その一言が言えなかった。君の細い指が首にまとわり息の根を止めかかったから。
「私を見る為だけの目玉で貴方は充分よ」
納得した僕は笑う事しか出来なかった。