ねぇ、眼を見て
ねぇ、眼を見て
大きな眼が2つ、自分に向けられた。漆黒に自分がぼやけて映っている。眼を逸らさないでいたらすぐに正気になり、なんだか恥ずかしくなってきたので、瞬きの回数が増えた。
「ふふっ、緊張してるの?」
「それは違う」
ほら、眼を逸らさないで
改めて眼を合わせると吸い込まれそうな感覚になった。鼓動が高まるのを自覚する。彼女はなぜこんな事をしているのか、意図も思考も作意も理解出来なくて、やっぱり瞬きを繰り返す。
「ドライアイなの?」
「いや、そんなんじゃないけど…」
目線を落とした。重い息を吐き出そうとしたら、図々しく彼女が視界に入ってきた。喉元まででかかっていたので、生唾で流し込んだ。
「何回瞬きした?」
「え、あ…わかんないや」
瞬きの隙間で未来は変わるのよ
言われた拍子に顔をあげると、彼女が微笑む。自分には言葉の意味を確かにそうだな、と思った。
「瞬きの間、私は貴方に近づいていたかもしれないし、離れたかもしれない」
それだけで変わるのよ
当たり前のような、哲学的なような、馬鹿な自分には興味なんて湧かない。楽しそうに笑う彼女は、今の僕には筋肉だけで笑っているように思えて仕方なかった。
「それは凄いな」
自分がそう言うと彼女は眉を下げて笑った。漆黒が揺らぐ。はっと息を飲み込んだ。心臓は止まらない。
「そんな感じで自分を変えたいな」
自分の一言に彼女は俯いた。前髪で表情が隠れてしまっている。いま彼女を抱き締められる勇気があればいいな、と自分も視線を落とす。
「さっきの間そう思ってたの?」
顔を上げた拍子に彼女と視線が合う。かぶりを振った。喉元まででかかった言葉を言おうとしたら
ねぇ、目を見て
彼女はまた言った。自分は逸らすまいと瞳を見つめ続ける。艶やかな黒、整った丸、黒眼に映る自分。
「好きになった?」
「…わかんない」
彼女は一歩ずつ、確実に自分に向かって近づいてきていた。それでも逸らさなかった、逸らせなかった、と言うか逸らしたくなかった。
「私は今の貴方が好き」
「あんた…いい眼してるな」
どちらかともなく唇が重なっていた。
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羨ましいの男の子と女の子です