ボーダー



「あーした天気になーれっ」


足元から放たれた靴は踵が踏み潰されていて高く弧を描いてパタリと目の前で落ちた。


「ひっくり返ってるね」
「え、なにこれ雨?」


すり減った靴底に凹凸は限りなく無くなっていた。ケンケン。爪先でひっくり返った靴を戻して履いた。


「明日誕生日の人ごめんなさい」
「今のところ降水確率20ぱー」


ポケットに片手を突っ込んで、まだパカパカ携帯の自分に見せ付けるようにスマートフォンを使ってネットを利用していた。


「うっわ、まじ腹立つ」
「なら早く変えなよ」


灼熱の星が活発に働いている。ジリジリ。優しく肌を焼いていく。頬を伝う汗を拭って「変えれるもんならそーしてるよ」と折れている踵を直した。


「扱い雑だからさ、すぐ変えれるよ、きっと」
「あー…そうかも」


携帯を取り出して外装を見ればあちこちにキズやヘコミ、赤色だったはずなのに所々シルバーが見えている。


「なんかもっと大切にしないとって思った」
「うんうん、いいこと」


そうして再び歩き始めた。相変わらず隣ではスマートフォンを片手で操っている奴が。


「そーいえば、今日誕生日なんだ」


思い立ったように言われた。ジリジリ。いい天気じゃないか。「おめでとう」小さく言うと柄にも無い自分の行動、発言に笑ってしまった。


「明日雨なのが残念だね」
「だから20ぱーだっての」


アーアー。何も聞こえませんよ、と耳を塞ぎながら意味もなく発声。横目で隣を見ればスマートフォンの画面を見せ付けてきた。腹立つ。その画面には各地の明日の天気予報がズラリと映されている。


「…信じないから」
「あっそう」


本当に今日誕生日なのだろうかと思い始めてきた。テンションが、低い。そんな気がする。だから取って置きの道化サーヴィスを今。


「あっ、つうか!今の携帯大事にしたらスマホになれないじゃん!」


少し間を置いてから隣の奴は顔をくしゃくしゃにしながら笑ってくれた。明日は雨が降ればいいな。そしたらきっと最高のプレゼント。でも、雨水が薄っぺらな靴底から入ってきちゃうんだろ。アーアー。可笑しくってまた笑った。





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