巳已己



睡魔が目蓋を撫でてくる昼食後の古典の授業。眠気覚ましにシャーペンを手の甲に刺す。痛い。けれども一瞬の痛み。刺したところはホクロよりも小さく薄い跡がつく。

「已然形に<ば>がつけば<ので>と訳します…えぇー、それで…」

黒板に汚い文字で書かれた古文の隅っこに、これまた汚い文字で体を傾かせないと読めないように<已然形+ば…ので>と書かれていった。教師の抑揚のない声色で機械的に授業が進められる。無駄な話し声やシャーペンがノートを走る音さえも聞こえない。みんなうつ伏せになったり、ばれないように音楽をきいたり、携帯を弄っていたりしている。

キーン………カァンコーーン…

間抜けで不気味なチャイムが鳴った。みんなはチャイムに合わせて各々立ち上がり誰かの挨拶で授業は終わった。溜め息とイビキが三十数名を詰められた小さい箱に溢れる。誰かのアクビがうつった。眠気覚ましにシャーペンを手の甲に刺した。痛い。でもぼんやりとしか目が覚めない。雑に消された古文の隣に忘れられたように<已然形+ば…ので>と書かれていた。

「あの先生、本当に字が汚い」

<いぜんけい>と読んでいいものなのだろうか、兎に角汚い文字。これでは授業を聞いていないとわからないじゃないかと思った。それでもいいか。小さな箱の真ん中で淡い煙を吐き出した。




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