会いたくなりました


真夜中に、会いたくなりました。


「…いま何時か分かってる?」


やっぱり。
電話をする前に、きっとそう言われるんだろうな、と予想も覚悟もしていた。けれど、いざ本当に言われたら、それはそれで傷ついた。んー、やっぱり。

お互いにまだ未成年の学生だし、親の目もあるしで、学生同士の恋愛は、なんとも窮屈なものだな、と思ってしまう。


「で、ですよねー…」


ははは、と笑った声は情けなく渇いていて、参ったなあ、と指先にある爪を持て余した。

なんとなく気まずくなる。これから先の会話はもう決まっているはずなのに、何を言おうか迷っている自分がいるから、まったく困ってしまう。

きっと、どうにかして、あなたを感じていたいのかもしれない。


「…寝れないのか?」


足元の淡い水色を見つめていたら左耳から、耳障りのいい優しいテノールが聞こえた。

なぜだか、その一言が、ジン、と胸に染みた。かっこいい台詞でもなんでもないのに、だ。そんなことで感じてしまうなんて、自分は弱いな。

ふるふる、頭を振って、いま電話をしていることに気が付いて、「ううん、」と言った。


「じゃあ、眠たいのか」
「…どっちか、っていうと」
「なにそれ」
「うん」


じゃあ、眠たいのに俺に会いたくなって電話したんだ、なんて、くふくふ笑いながら意地悪を言ってきた。なんかちょっと、むかつく。

というよりは、自分が眠たいかどうかなんて考えていなかった。聞かれたら、眠たいかも、って感じ。だけど睡魔より、あなたに会いたいな、っていうのが勝ったのが本当で、だから、ちょっとバカにされたみたいで、ムカッとした。


「わ、笑うな!」
「ははっ、じゃあ笑わせんなー」
「べ別に、そんなんじゃ…」
「はいはい、可愛い可愛い」


それはまるで、駄々をこねて泣いている子どもをなだめるようなものだった。その言葉を聞いて、ますます自分はムカムカして、なんたかちょっぴり会いたくなくなった。きっと、もっとバカにされて笑われるに違いなかったから。


「もーいい!ねる」
「おう、そろそろ俺も、寝るわ」


そう言った直後に、大きな欠伸が聞こえた。


「あっ…もしかして、寝てた?」


あわてて、そう聞く。
だって、だって、だって。


「んー、寝ようとしてただけ」
「ご、ごめん…」
「なにそれ」
「だって、じゃまして…」


そう言ったあと、自分は電話なんかしなければ良かった、なんてちょっとした自己嫌悪に陥った。真っ黒な渦が身体にグルグルと巻き付いてきた、みたいな、そんな気持ち悪い、感覚。


「いいよ、別にそんなこと」
「……うん」
「だって、おれ、お前の彼氏だし」
「う、うん…」
「そんなお前も、好きだし?」


なんだか、聞いていて、照れた。
身体もむずかゆくなってきて、あぐらを揺らした。唇を舐めて引っ込めた。


「……うん」
「だから、気にすんな」
「………なんか、へん」
「うるっせ」


電話の向こう側の彼も、同じように照れているんだな、と分かった。気持ちを分け合っているように感じた。胸が、じんわり、あったまった。


「じゃ、切るね…」
「おう、またな」
「うん、明日ね、おやすみ」
「おやすみ」


そうやって、時をすごして、君を感じる。寒空の冷やかさは窓ガラス一枚の隔たりだけじゃ防げない。会いたい。それだけの、くだらない、わがまま。

胸の奥のあたたかさを感じて、あしたのあたたかさを期待して、今日も今日を終える。








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