第二水曜日あたり
知ってた?
日本人が足が短いのは、大腸が他の国と比べて長いからなんだよ。
それは学校帰りの出来事だった。
少し肌寒くなってきた放課後。もう5時でも薄暗い。自転車で通うほど長くない帰路。
季節に関係なくどこか冷めているセンチメンタルな俺の彼女が、本当は校則違反だがブレザーの下からグレーのカーディガンをのぞかせ、綺麗に切りそろえられた丸い爪で、血の通いが悪い指先で、俺のブレザーの裾を掴みながら「わたし明日、生理なんだ……」と言ったから、俺たちは十字路で別れる事無く、俺のベッドに到着した。
部屋に入る彼女。俺は扉を閉めるとすぐに後ろから彼女に抱きついた。ビクンと跳ねた小さい身体。首に顔を埋める。かすめるのはお情けのボディーソープの香り。一呼吸。彼女はカバンを落とした。「はぅ…っ」くすぐったそうに声を出せば、俺の男のスイッチは完全に入った。
腕の中で彼女を反転させる。うつむいている。切ない表情。しかし、たしかに朱に染まっている頬。俺も彼女もエロいことは嫌いでない。顔を近付ける。あたたかい吐息がかかる。じりり、視線を絡める。鼻先をぶつけあう。そして俺から強引に唇を奪う。勢いがよすぎて歯が鳴った。痛くてすぐに離れた。彼女の顔をうかがう前に今度は唇を食べられた。ねっとり、熱い。俺たちは静かにひとつになる。
事が終われば彼女はいつも制服に着替える。だけど今日は違った。なんでかわからない。ただ今日の彼女はいつもより感度がよく、大胆だった。生理が近いからなのかよくわかんない。彼女の気まぐれか、俺が上手くなったか。
今だに裸の彼女とベッドで並んで横になっていたら、彼女は俺に触れてきた。あの冷たい指先で。火照ったからだにその冷たさは慣れなくて、ビクリ跳ねる。しかし彼女はやめない。どこか遠くを見つめるような目で、俺の裸体をみて、ゆびで縁取るようになぞる。
「日本人は外国の人より大腸が長いから足が短いんだってね……」
俺のヘソをぐるぐるなぞりながら、そんなことを言い出した。風が強くなった。窓がガタッと揺れる。
「……へぇ、」
俺には心底どうでもいい話だった。別に足の長さなんか気にしたことないし、身長だったら男子高校生の平均より上。だから、気にしなかった。気にしたのは、なぜ彼女がそんなことを言ったか、なのだ。
「だからね、日本人は大腸がんのリスクが、他の国より多いの…」
今度は手のひらを押しつけるようにして俺のヘソに触れる。冷たいのは指先だけみたいなので、なんともなかった。俺はこういう時の返事の台詞を知らないから、聞き流す。彼女もとりわけそれを気に留めない。やっぱり、どこか冷めているのかもしれない。俺たち。
「子宮は、そんな大腸が邪魔なの」
彼女の声色は何も変わっているはずないのに、なぜだか凄みを増していた。彼女はまだヘソを撫でる。いま一体どういった心境なのだろうか。俺には子宮なんてないし、どこらへんにあんのかも知らない。生理だってしらない。第二減数分裂の中期に起こっていることは知っている。ただそこに卵があって、精子をそこに注げば子供ができるっていう保健体育の内容しかしらない。興味もない。だから彼女の話に着いていきたくない。
「ふぅん…」
彼女は切なさを優しい笑みで隠しているように、俺に口づけをしてきた。息が絡まる。彼女がいつもと違うのは火を見るより明らかであったのに、俺はなぜ彼女がいつもと違うのか分からなかった。同時に分かりたくもないし、わかりあえないと、思ってしまった。
「生理、がんばって」
よくわからないけど、そういいたくなった。