濃密な瞬間は短くて、
「んっ…ん、……ぁ、……ん」
身体の一番したにある、穴の隙間を埋めて、ゆるやかな律動。その振動に合わせて、呼吸をして、二酸化炭素と甘い声を絡ませる。
「なんや、かとーくん、眠いんか?」
汗ばんだ髪の毛が、ちりり、かすめる。あたたかい吐息。ふやけた目玉が眠たそうだ。
だけど、やめない。
返事なんかいらない。せっかくの、久しぶりの、セックスなのに、かとーくんが集中してくれてないみたいだから、ガキみたいな嫉妬心。かまってよー、みたいな。まあ、かとーくん自体ガキだから、別にどうでもいいんだけど。
膨らみのない平らな胸。赤より鮮やかな乳首を立たせて、下手に欲情しているから、おもしろい。
男だから生でやってもいいし、毎日が安全日だから出してもいい。そんでもって、かとーくんはお金をあまりせびらないからいい。
電話して、メシ食わせて、んで自分の欲を満たしてホテル代だせばいいだけ。身体のお金を渡したことわない。メシ食わせてホテルの部屋貸してやってんだからさ。それだけでもいい額するからね、お手頃だよ、まったく。
「気持ち、ええ?…なあ、かとーくん…」
焦らすように、焦らすように。
ねちっこく、キスしてやって、わざと好いところを外して、突く。これだけで、かとーくんは、目を潤ませて、にらんでくる。体勢が下であっても、にらんでくる。ぞくぞくさせてくれるから、すきだなぁ、とにんまりする。
「も…もっと…、お…くぅ…っ」
はぁはぁ、言いながら、いっちょ前な誘い込み。何が奥だ。アクビみたいに、喘いどいて。
「…ほな、」
太ももの裏を鷲掴む。遠慮なく左右に開かせる。結合部の入り口がわずかに広がり腰が浮く。すかさず膝を前に進め、身体を前に突き出した。
さっきよりは断然、深い挿入。
「あ、あぅ…っ!」
キュッ、と瞑った両目。涙がこぼれる。涙の行き先なんかに気をとられている場合なんかじゃなくって、俺は、ひだとは言い難い、ぐにぐにした、なま暖かい、かとーくんの内側に入って。
「とめ…へん…から、」
アホみたいに、腰を振った。
かとーくんからは、会いたいとは絶対いわない。いやまあ、そうゆう仕事だし、恋愛とは違うし、身体は繋がってても、って感じだし。
あれから、かとーくんは2回、俺は1回ナカで。あとは、俺だけ回数少ないのが気に食わなかったかとーくんが、ペロペロお上手にご奉仕してくれた。ただの負けず嫌いな、だけだ。かわいーよ、まったく。
「なんや、かとーくん、寝ぇへんの?」
逆転した夜の生活な生きる住民の1人。暗転した部屋がやけに似合うかとーくん。未成年なのに、こんなものに手を出して、大変やなぁ、と毎度毎度思う。
そんな彼を支援している俺はボランティア、みたいな。いや、ちゃうな。無償ちゃうもんな。なんやろ、お互い依存してん。
「眠くねーし…つか、寝れないし…」
俺に冷たい背中を向けて、動物みたいに丸まって、シーツを手繰る、その仕草。
「今日俺も、泊まってえぇ?」
ぼんやり天井を見つめながら、つぶやく。かとーくんの事を心配できるほど脳ミソは大人やなくて、明日の仕事の事が余韻を妨げる。
かとーくんは返事をしない。
寝てしまったのだろうか。と思えば、モゾモゾ動いた身体。
「修学旅行生がおってな、ホテル手配できひんくて……な?ええやろ?」
しばらく、黙っていたら、「好きにすれば…」と返事がきた。
モゾモゾ、かとーくんがまた動き出したから、ちらり目配せをしたら、寝返りをうって、俺に顔を見せた。
「この部屋、広すぎ、だから……1人で寝るのヤだなって」
かとーくんは、俺を見る。
「…誰に電話しようかなって、迷ってたところだった」
にかっ、と笑み。
それから赤い舌を出して、下唇を舐めて見せた。さりげない仕草。
なんてマセたガキなんやろ、って思ったのと、やっぱまだガキなんやなって思った。
「アホか、」
かとーくんから人を誘うなんて、あり得ない。だから、さっきのセリフはアホだと思った。
それとも、好きな人とか恋人いるんちゃうかな、とも思った。
やっぱり女の子なんかな、それとも男か。かとーくんより年上で、お金持ってる人なんやろな。なんて、余計なことまで考えた。
「せや、かとーくん何時に出る?俺、朝から仕事入ってん、せやから早いから…、」
起こしたら、ごめん。
そう言い掛けた時に、かとーくんが濡れた唇を押し付けてきた。
「…おれ朝からセックスとかマジ勘弁だから、いましよ」
体温が触れる。都合よくもなにも、俺たちは服を脱いでいて、ラブホテルにいて、朝までダブルベッドで夜をともにする予定だったけど、まさか、また誘われるとは思わなかった。
「それ…自分がしたいんとちゃうん?」
「………べつに」
かとーくんは、どこかぶっきらぼうな言い方だった。わざわざ飛行機に乗ってこっちきて、まあ、目的は違えど、こうやって付き合ってんのに、なんやの。かわいくない。
「朝も今もせーへん、もう、寝よ」
「………いいの?」
含んだ言い方だった。
かとーくんは、毎日抱かれてるわけないし、毎日メシ食えてるわけないから、こうやって俺みたいなお客さんを大事にせなアカンやろなぁ、てことくらいわかる。だから、やろ。
「はよもう寝よ、な?」
かとーくんは何を考えているのだろうか。もう、料金分はした、サービスなんか、ガキがしなくたっていい。下手に大人ぶらなくたって、いい。
真上にあるかとーくんの顔に手を伸ばす。その手に頬をすり寄せてきた。ほんま、人懐っこい動物みたいやな。
「朝勃ちしとったら、助けてもらおっかなー」
「……突っ込む?」
あまりお利口さんではない口が、今日はやわらかだ。
「んー、手で可愛がってぇな」
「…いいの?それで」
おん、と笑えばかとーくんはくすぐったそうにした。あどけない笑み。こんな風に笑うんやな。
ああ、惚れてもうたらアカンなぁ、と思った。
「ほな、寝よ」
「んっ………」
ちゅ、と吸い付くようなキスを貰う。それから見つめあうことなく、かとーくんは照れたみたいにすぐさまベッドのシーツに隠れていった。
「おやすみ」
夜は案外、短いものだった。