地球滅亡説
「そう言えば」
ズルズルと音をたてながらレモンティーを啜っていたら、視界の左側にある一人掛けの椅子に、俺と色違いのマグカップを持って、ヨイショと座りながら長い足を自慢するみたいに組んだ同居人。
「地球が滅亡するとか騒いでた事もあったよな」
彼もまたズズッとマグカップに口付けた。
地球滅亡説。
それは俺とこの人が一緒に住みはじめた時の会話だった事を思い出した。
「あったね、そんなことも」
波紋が幾重にも生まれるマグカップの黄色い中身を見つめて、懐かしさに浸る。
「もう4年前だよ?」
「そうそう、あれから4年だよ俺達」
その人はまたマグカップに口付け。俺も釣られるようにレモンティーを啜る。
「去年のクリスマス前だったじゃん、その予言が」
彼がポツリと言う。
俺は何も言わず黙ってそれを聞くことにした。
「でさ、どうせ死ぬなら地球滅亡の日に一緒に死にませんか、とか言ってさ、」
明確には覚えていないが、そんなことを話していたような気がしてきた。
「自殺サークルから抜けて、死ぬ場所にこだわって、この部屋借りて、ここの家賃を払う為に二人で仕事し始めてさ、」
彼は組んでた足をほどいて、身を突き出し膝に肘を当て、足の間でマグカップを弄びながら遠い目で、その中身を覗いていた。
「それの所為で、地球滅亡の日は二人共仕事詰めで…、気付いたら、あれから1年経っててさ……」
彼はスゥと息を吸うのと同時に上体を起こして、俺を見た。
何ともいえない微妙な距離。視線が絡まって、かといって俺はそれの解き方なんて知らなくて、どぎまぎマグカップを握ることしかできない。
「……だから、次の地球滅亡の日まで、また一緒に住もうよ…今度はちゃんとその日に有給とってさ、」
彼はあどけない、お茶目な顔で、俺にそう笑いかけた。
「そうだね」
だから俺も笑った。次の地球滅亡の日なんか知らないし、あるのかも分からないけど、そんな約束をしたことに胸を躍らせている自分がいた。
彼は街の景色が一望出来る大きな窓ガラスの方を向いてマグカップを傾けた。
俺は相変わらずズルズルとレモンティーを飲んだ。少し甘くて、酸っぱかった。