虹を見つけた
「あ、」
ザアァと降っていた雨がピタリと止んで、透明感のある爽やかな空が広がった。
やがてうっすらと水分を多く含んだ七色が塗られ、太陽の光がキラリと見えたら、七色が重ね塗りされて虹になった。
「もしもし、」
ジャケットのポケットに慌てて右手を突っ込み、薄っぺらな機械を何度か指で撫でて耳に当てたら、大好きな貴方の声が返ってきた。
「いま、虹が見えますよ」
行き場の見当たらない手をジーンズの尻ポケットにしまって、空を見上げる。
そうしたら手の中からガラガラと窓が開く音がして、「ホントだ、綺麗だね」なんてやわらかく感嘆の言葉が耳を溶かす。
「見えなくなっちゃう前に、見せたかったんです、これ」
なんだか言っていて恥ずかしくなったから、視線を落として、黒く汚れてしまったスニーカーの爪先を見つめて、小石を突くような真似をする。
「うん、見れた、嬉しい」
ふふっ、と柔らかな笑みを含んだ貴方の声色に、なんだか安心を覚えた。
「…ねえ、家来ない?」
それから俺が言葉を続けようとしたら、そっちから、そんな甘い囁きが聞こえた。
「それ誘ってんすか?」
こんな昼間っから、憐れで厭らしい貴方の姿を思い出して、血が騒ついた。敬語だった口調が、一瞬にして崩れた。俺には貴方みたいな大人の余裕がないから、からかわれているんだろうなって思った。
「虹、一緒に見ようよ」
そんな風に言うもんだから、容易くふにゃふにゃと笑う貴方を思い出して、ドキリと胸が疼いた。
「ほら、早く来ないと、消えちゃうよ?」
少しだけイタズラっぽく貴方が言うもんだから、俺は慌てて「今から行きます!」と早口で伝えた。
「じゃあ、待ってるね」
貴方はそう言って、一方的にプツリと電話を切った。自然と顔が緩む。電話をかけた方が先に切るマナーが成っていなくて、俺はクスクスと笑いながら軽い足取りで水溜まりを飛び越えた。