奉仕
「キス、しよっか」
やけに息の荒いおじさんを捕まえてホテルに連れこみベッドに座るや否やキスを迫られた。膨れ上がった頬の肉に手を置くと、剃り残しの髭に臭いのキツい汗、蒸すような体温が伝わる。
「ん…ふっ…ン、んっ」
静かに目を閉じ唇を少し突き出せば、唇を貪るようなキスから始まって取られるくらい吸い付かれて、肉厚な舌が唇を割って咥内に入ってくる。舌も絡まれてから吸われ、甘噛みされる。
「んむ…、ン…ッ」
口の端から収まりきらなかった唾液がツーと垂れる。その感覚が嫌で首に回していた腕に力を込めた。それは直ぐに伝わったみたいで、ゆっくりゆっくりと舌が抜けていく。最後に残った舌先で歯列をなぞられキスは終わった。
舌先から伸びる銀色の糸はお互いの唾液が混ざり合ったもので、男は舌で丁寧にそれを巻き取り、何度か顎を動かしてから喉仏を上下した。
「は、はっ…は、ン」
今日はフェラだけ。
少し長い髪を耳にかけて床に膝をつく。男は恥ずかしげもなく足を開いた。ベルトは緩めただけで、手を太ももに置いた。キスだけで股間が窮屈そうで、男は黙って腰を浮かせる。
バックルを手際よく外してジッパーは器用に歯で開けた。そうしたらいきなり性器が飛び出してきた。鼻に当たった事に男は、短く感激の声をあげた。不快だった。
赤黒く脈打つグロテスク。息を吹き掛けたら少し質量が増した気がした。上から唾液をかけてから先端にしゃぶりついた。
咥内は直ぐ雄の味で満たされる。声を少しだけ漏らせば男の息は更に荒くなった。舌で輪郭を辿り、裏筋へと伸ばす。舌先を立ててゆっくり舐めると手の置いてある太ももが縦に揺れた。
「あぁ、いい…」
頭を優しく撫でられる。悪い気はしない。性器に顔をもっと近付けて横に吸い付く。透明で粘着質のある液が唇から顎、首へと伝った。性器は徐々に芯を持ちはじめてきた。
薄皮を甘く噛んで引っ張ると情けない声をあげた。陰毛が頬に触れもれなく咥内に一本入ってしまった。それを舌で転がして性器を舐めたときにつけてやる。陰毛近くと、陰毛をつけた部分には舌を這わないようにしよう。
「んむっ…、ン」
脈打つスピードが速まったのを確認して射精感を察して正面からしゃぶりついた。明らかに最初より質量は増していて、元々小さい口なので端から裂けてしまいそうな気がした。
再び襲い掛かってきた雄の味。嗅覚は奪われ涙目になった。口を窄めながら、頭を上下する。こんな広い部屋で、男の足元にしゃがみこんで、変なもんしゃぶって、ナニやってるんだろって、考えだしたら止まらなくて、可笑しくなって、舌先で先端をチロチロと舐めてから甘噛みをした。
男は天を仰ぎ金魚のように口で酸素を必死に取り込んでいる。その姿がおもしろくて、たまらず強く吸ってみた。熱い息がと声が頭上を覆う。相手が違ったらもっと興奮していたのに、残念。
根元がビクンと動いた瞬間、男によって頭を押し付けられて喉に先端が着いた。口元に細く硬い何かが触れる。雄の味が一層濃さを増したようだ。胃から逆流するような嗚咽感が走った時には、射精されていた。
「ん…っ、…うぁ」
咥内に放たれた欲。熱くて、トロトロしてて、塩っぱい。喉に注がれたが、自然に飲み込まれるものではない。喉の奥に溜まり、行き場を無くした精液は咥内に溢れた。
全部を出しきった男は頭から手を離した。ゆっくり咥内から性器が抜かれていく。口の端から精液が垂れていくのがわかる。
全部抜けたところで先端から伸びた白い糸は唇からひかれていて、ある程度伸びたところで切れた。性器には自分の唾液と男の精液でぐちゃぐちゃで部屋のライトでいやらしく光る。
虚ろな瞳に涙を浮かべて焦点を合わせる事無く、口の中に残った精液を飲み込んだ。震えだした唇をばれないように前歯で噛む。そして直ぐに男に口を開けて挑発するように舌を出した。
「のんだ、ぁ…」
また、濃厚なキスをされた。卑猥な水音が耳に残る。息苦しさが胸に押し寄せ、構わず鼻で呼吸をした。鼻息が荒かったのか、案外唇はすぐに離れていった。
熱を帯びた太い息を長く吐いた。男はまだ興奮したように短く息を吐いたりしている。素早く立ち上がって太ももの上に乗っかり、ジーンズにのったお腹から胸板にかけて手を滑らせる。
汗ばんでいて、暑苦しい体毛が指の間をすり抜けていく。このセルライトの塊め。荒い呼吸が耳に吹きかかる。
腰に回された手が妖しく動き、下着の中に入ろうとしていた。咄嗟に立ち上がって、椅子の背もたれにに掛けたその男のジャケットを持って駆け寄る。ポケットの中に折り畳みの財布があるのがわかったからだ。
「ごまい」
「え……三枚は?」
「ごまい」
「続きは…?」
ごまい、と続ければ渋々の言った感じで、ユキチを三人分を渡された。最後に、と熱く濃厚なキスを貰って男は部屋から姿を消した。
息を吐いた。無理やりな人でなくて良かったと、ホッと胸を撫で下ろした時に、椅子にかけた上着のポケットが震えた。設定しているバイブ音に眉を潜める。
「………はい、もしもし」
「ねぇ、今からいい?」
何も発さずにいたら、じゃあ、いつものとこで、と一方的に切られた。溜め息はどこにも消えない。
誰にも言えない、夜のお仕事。
パッとしない、こんなわけのわからない仕事。誰の為なのか、わからなくなる。男の為なのか自分の為なのか。だけど私は知っていた。そんなこと考えたら、負けだってこと。